閑話4 女性組の入浴
※リナ視点です。
クェート伯爵城に招かれたその日の夜。
私、メリー、リーニャ、イリーナさんの4人は、女性用の浴場にやってきた。
その前にイリーナさんがハリーと同じ風呂に入ろうとするというハプニングも発生したりしたが……概ね平和だ。
「おー、大きいわねぇ……!」
「銭湯みたいな大きさね……」
「せんとう……?って何?」
「なんでもないわ」
危ない、危ない。
私が転生者である事はハリー以外には明かしていないので、迂闊な発言は禁物だった。
私とメリーのそんな会話を余所に、イリーナさんは誇らしげな顔をしている。
「うちのお風呂は、王城のものを参考にしているので、大きさは貴族一なんですよ!」
「風呂にかける情熱が凄いのね……」
メリー達はそうでもないようだが、私は結構お風呂好きなのでこのサイズのお風呂にはワクワクする。
――これは骨抜きにされそうね。
私が胸中でそんな事を呟いている間に、リーニャが一番乗りにお風呂に浸かる。
「あちち!」
「ふふ、そんなに急いで入ったら火傷してしまいますよ?」
ざばーん、とお湯を吹き飛ばしながら飛び込んだリーニャを、イリーナさんが微笑みながら窘める。この国の貴族は――貴族以外もそうだが――獣人嫌いが多いにも関わらず、イリーナさんはリーニャの事を可愛がっている。
まあ、あのモフモフに勝てるものなんて無いわよね……と思いながら、近くにあった桶を使って掛け湯を行う。この世界出身であるイリーナさん達は何もせず普通に浸かっていくが、日本人の私としては掛け湯を行うのが癖になっているのだ。
掛け湯が珍しいのか、メリーが尋ねてきた。
「なんでお風呂に浸かる前にお湯を掛けるの?」
「えーと……こうする事でお風呂の熱さに体を慣らすのよ」
「へえ……お風呂とか全然入らないから知らなかった」
どうやら、ただ単純にお風呂に入る事が少なかっただけらしい。
とはいえ、イリーナさんは掛け湯をせず浸かっていったので、恐らくこちらの世界に掛け湯という文化は無いだろう。イリーナさんが知らないだけという可能性もあるが。
メリーの疑問にも答え終わったので、私も遅ればせながらお風呂に入る。
「はふぅ……気持ちいい……」
全身を弛緩させると、思わず声が漏れ出る。
真冬のこの時期のお風呂はやっぱり格別だ。一時間ぐらい入っていたい。
しかしそんなお風呂の良さは子供には伝わらないのか、リーニャはまだ入ってすぐなのにもう上がっていってしまった。
「早いわねぇ……」
「あー、猫って濡れるの嫌がるからじゃない?」
「なるほど……獣人もそこは一緒なんですね~」
確かに、それもあるかも。猫のお風呂動画とか貴重だしね。
私達はそんなリーニャとは違い、温かいお風呂に長く浸かる。
必然的に会話が始まり……自然と話題はハリーの事になっていった。
「お2人は、いつからハリーさんと一緒に旅をしてらっしゃるんですか?」
「私は2か月前ぐらいからね……」
「私は1か月前ぐらいからよ」
私達がそれぞれ答えると、イリーナさんは湯船の下でグッと拳を握り締める。
「2か月……なら私にもまだ……」
そして、何やらブツブツ呟き始めている。
しばらくした後、今度は別の質問を投げ掛けてきた。
「お2人はどうやってハリーさんと知り合ったんですか?」
「私が乗ってた馬車にたまたまハリーが遭遇して、そのまま近くの都市まで一緒に乗ったわね。ハリーが冒険者になりたがってたから、冒険者だった私が色々教えてあげたりしたわ」
時期からしてハリーが転生した直後だし……運命の出会いみたいなものじゃない!
でも私も負けてないわ!
「なるほど……リナさんは?」
私が胸中で叫んでいる間に、イリーナさんが私にも回答を求めてくる。
「私はブルーノ子爵の奴隷にされていたのを助けてもらったわ。あの時は本当に嬉しかったわね」
「奴隷ですか……不快な気持ちにさせてしまったら申し訳無いのですが、何故奴隷に?」
イリーナさんがおずおずと尋ねてくる。
別にそれぐらいで不快になんてならないのに。
「ほら、私ってエルフでしょう?この国は亜人も獣人も嫌われてるし……」
「えぇ、リナさんってエルフだったんですか!?」
どうやらイリーナさんは私がエルフである事に気付いていなかったらしい。
まあ、この世界のエルフはそれほど耳が尖っていないし、私は髪が長くて隠れているからね。
「そうよ、ほら」
イリーナさんに見やすいように髪をかき上げてみせる。
イリーナさんは「本当ですね……」と呟くと、おもむろに耳を触り始めた。突然触られたので、思わず変な声が出てしまう。
「んっ、ちょっと触るなんて聞いてないわよ!」
「ああ、すみません……」
私が半ば怒鳴るようにしてそう言うと、イリーナさんは首を縮めながら謝ってくる。
ここはヘイトをメリーに向けるか……。
「触るなら、あの無駄に大きい胸にしときなさい」
「む、確かに……メリーさん、なんでそんなにお胸が大きいんですか!!」
私がメリーを指差すと、イリーナさんは飼い犬のように飛びついていく。
「なんでって――ひゃぁん!?ちょっ、やめっ――」
「教えてくれるまでやめません!」
メリーは色っぽい声を出しながら止めるように叫ぶが、イリーナさんは無視してメリーの胸を揉みしだく。
あのデカい乳が形を変えている様は実に良い。いいぞイリーナさん、そのままもいでしまえ。
大体、ハリーは大きいからって鼻の下を伸ばしすぎなのだ。大きさだけが正義じゃないのよ、まったく。
この中で一番胸が小さい私は、自分の胸を軽く揉みながら胸中で呟く。
エルフは成人した後――この世界での成人は15歳なので、私はもう3年も前の事だ――は老いるまでの間一切成長しないので、胸も中学3年生程度のサイズで成長が止まってしまったのだ。これ以上大きくしたいのならば出産でもしなければいけないが……今のところその予定は無い。
「はぁ……」
虚しさのあまり溜め息がこぼれる。
こんな小さな胸でもハリーは満足するだろうか……。
「――ちょっとぉ!溜め息吐いてないで助けてぇ!」
未だイリーナさんに胸を揉まれたままのメリーが叫ぶ。
――無視だ、無視。そのままお嫁に行けない体にされてしまえ。
「さぁ、早く秘訣を教えて下さい!」
「んっ、だからそんなのっ、無いってぇ!」
「じゃあ続きますよ!」
「んあっ、やめてぇっ!!」
……どうやら本当にもがれるまで続きそうだ。
ふぅ……と長く息を吐いた私は、そのままイリーナさんの応援を始めた。
◇
「ぐす……もうお嫁に行けない」
「ごめんなさい……」
風呂を上がるなり定番のセリフを言うメリー。
あの後20分くらいは揉まれ続けていた。可哀想だとは思わない。デカい胸を垂れさせている方が悪いのだから。
「ほら、そんないつまでも落ち込んでないで……それより、なんか遊ぶ物無いの?」
ただ一緒にいる相手が暗いとどうにも嫌な気分になるので、私は2人を励ますために遊びを提案する。
「あー……それでしたら、私の部屋にいくつかありますよ」
「そう?じゃあハリーの部屋に持っていきましょ。……そういう事だから、メリーも機嫌治しなさい」
「……はぁーい」
そうして私達は眠りこけるリーニャを放置し、遊び道具を取りに行くべくイリーナさんの部屋に向かった。
チェスで圧勝して一緒に寝れたのは幸運だったわ。




