33 事後処理
座り込んで息を整えた俺は、地面に転がっていたエクスカリバーを引っ掴んで、腰の鞘に仕舞い込む。デュランダルも仕舞おうと思ったが、鞘を投げ捨ててしまった事に気が付く。
億劫だが取りに行くかぁ……と腰を上げようとしたところ、メリーが鞘を手渡してくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
礼を言ってデュランダルを鞘に仕舞う。
デュランダルには特に防御面でお世話になった。鋭さはエクスカリバーの方が上に感じたが、硬さはこちらの方が上なのだ。名前に恥じぬ活躍をしてくれた。
俺がデュランダルを仕舞うのを見届けた後、メリーがおもむろに口を開く。
「さぁて、じゃあ色々聞かせてもらいたいんだけど?」
「……色々とは?」
「まず、なんで急に消えたの!あれめっちゃ心配したんだけど!?」
反射的に答えようとして、ナスターニャ神に口止めされていた事を思い出す。
この事を告げるのは、彼女がナユリエ神への信仰を失った後で無ければならない。
「すまん、それは言えん」
「なんでよ?」
「なんでもだ」
「ケチ」
「ケチで結構」
彼女のためでもあるので、いくら悪態を吐かれようと言うつもりは無いのだ。
じゃあ、とメリーが次の質問をする。
「あの悪魔達は何?どこから来たの?何しに来たの?」
「それ俺に訊く事かよ……?まあ、答えられん事も無いが」
「じゃあ教えなさいよ」
メリーと会話をしている間にリナやリーニャも寄ってきたので、2人を交えて話す事にする。とはいえ、リーニャは神域での話をほとんど聞いていないし、リナは説明する面倒を背負う気は無さそうだったので、基本的には俺とメリーのみの会話だ。
「えーと。まああの悪魔達は、多分俺やリナを追ってきた奴ら……だと思う」
最後を推測で切ったのは、確定にすると根拠を尋ねられると思ったからだ。
答えられないような質問は、最初からされないに越した事は無い。
「ふーん。じゃあ、ハリー達を殺しに来たって訳ね?」
「まあ、多分な」
「で、返り討ちに遭ったと……また来るの?」
「…………多分な」
メリーがナユリエ神の巫女である以上、常に座標を特定されるのでは、という懸念を口に出す事はできなかった。
リナも同じ事を考えているのか視線を送ってくる。
だが仮にそうだったとして……ここでメリーを追い出すような真似はしたくない。メリーからすれば裏切られたように感じるだろうし、何より最初に俺についてきてくれたのはメリーだからだ。
結局のところ、黙っておいて悪魔が来る度に追い返すしか手段は無いのだ。
そんな決意を内心で固めつつ、次なる質問に備える。
「じゃあ……あのリナの青い光は?もしかして、リナも勇者だったり?」
的外れな推測をするメリーに吹き出しそうになった。
笑いを堪える俺の代わりに、当のリナが回答を言った。
「そんな訳無いじゃない。私はいつまでもハリーの従者よ」
リナのそんな言葉に目頭が熱くなりかけた。
こう……自分の事を信頼してくれてる人がいるって良いものだな。
俺がそんな感慨を抱いている間にも、会話は進んでいく。
「じゃあ、あの青い光は何なの?」
「……ユニークスキルってやつよ」
「え、じゃあリナも転生者なの!?」
「……そうよ」
――逆にこれまで隠してたんだな。
既に2人は結構仲良くなっていたので、その辺りの事情は説明済みかと思っていた。俺が勝手に口を滑らせなくて助かったと言える。
メリーはしばらく他に訊く事が無いか考えていたようだったが、何も思い付かなかったのか一つ溜め息を吐いた。
喋る事が無くなった俺は空を見ると、ふとある事に気が付く。
「……そういえば、悪魔の死体は残らなかったな」
「確かに……ミラーノ市の時は残った筈よね?」
「何か私達には分からない違いがあるのかもね」
念のため悪魔を殺した地点に移動してみても、地面には何一つ残されていない。あの黒い粒子さえもだ。
「……ま、考えてもしょうがないか。それより、早く公爵領に向かおう。追加で襲ってこないとも限らないし……」
「そうね。私、馬車の整備してくる!」
「おう」
小橋に馬車に向かっていくメリーを見届け、目を閉じてステータスを開く。
表示されたレベルは――54。ラエン伯爵領での盗賊狩りで数レベル上昇していたとはいえ、一気にレベルアップした事は間違い無い。とうとうレベル50の大台に達したか……。
続けてスキルの方を見やる。予想通り、「万能鑑定」は消滅しており、代わりに「眼光炯々」というユニークスキルが現れていた。
この調子でいくとリナの方も変わっていそうだな……と思い、目を開けて同じくステータスを見ているリナに話しかける。
「リナ、ユニークスキル変わってたか?」
「ええ。その様子だと、そっちも同じだったみたいね」
「ああ……でも、変わったのは1つだけだったな」
「え、そうなの?私は両方変わってたわよ」
気になったので、リナのステータスを見ようと思ったところで……これまでとは発動の仕方が違う事に気付く。
はて、どうしようか……と思っていると、リナの横側にステータス表示が現れた。どうやら、「ステータスを見よう」という意思を持ちながら対象を見つめるだけでいいようだ。悪魔との戦闘中に突然ステータスが見れたのは、こういう事か……。
表示されたスキル欄は、確かにこれまでと変わっている。
ユニークスキルは、「致命一撃」「琴瑟相和」の2つだった。後者は先程使用している場面を見たし、なんなら直に体感したので効果は分かっている。前者の方はまだ効果を見聞きしていないが、前の「一撃入魂」と本質が変わらない筈なので、名前からしても一撃必殺系の力なのだろう。
そこまで考えて、許可を取らずにステータスを覗いた事に気が付く。ステータスは個人情報にも等しいし、情報の欄にはその気になれば体重などの情報も載るので、無許可で覗かないようにしていたんだった……。
だが、いつもなら飛んでくる筈の叱責がやってこない。それどころか、リナは無言で見つめられている事にきょとんとしている。
長い沈黙に耐えきれなかったか、リナが口を開く。
「え、えと……どうしたの?」
どうやら本当に気が付かなかったようだ。「万能鑑定」の時は目が金色に光っていた筈なので、そこも変わったという事か。
流石にずっと黙っているとリナに不自然に思われるので、適当に内容を考えて言葉を発する。
「いや、なんでもない……それより、新しくなったユニークスキルの検証はするか?」
「したいところだけど……あれ、一回使ったらしばらく動けなくなるのよね……」
確か、リナが前に使った時は指先すら動かせない程だったか。
ならば、夜の見張りの交代直前とかに試すべきか……。
「じゃあ、野営の時に試そう」
「そうね。そうしましょうか」
ある程度見通しが立ったところで、馬車の整備を終えたメリーが大声で俺達を呼んだ。
「お~い、もう乗れるわよ~!」
「おーう!」
こちらも大声で叫び返し、早くもメリーが御者台に座っている馬車に向かう。
まあ、とりあえずはこれまで通りレベル上げをしつつ観光していくとしよう。
心の中で方針を決めた俺は、メリーに急かされながら馬車に飛び乗った。




