32 悪魔の強襲
2体の悪魔の攻撃を、両手に持ったエクスカリバーとデュランダルで捌く。全ての装備に魔力を流し、アイギスの身体強化機能を利用しても尚防戦一方の状況だ。
そして、この剣戟の中で気付いた事がある。それは、俺の「万能鑑定」が変化している事だ。戦闘中なのでステータスを開く事ができず具体的な変化は分からないが、対象を数秒見つめるだけで鑑定ができるようになっていた。
それによると、コイツらは上級悪魔で、レベルが62と57もあるようだ。正直言って、何故渡り合えているのか自分でも分からない。
「むぅ、やはり聖なる装備は厄介ですね……」
「全くだ。偽の聖剣とは訳が違うな」
――偽の聖剣?
中々に興味のそそられるワードが聞こえたが、一言でも喋れば集中が乱されてしまいそうで、問う事ができない。
メリー達3人はハイレベルな戦いについていけないようだ。下手に魔法を放てば俺に誤射してしまうと考えているのか、魔法を発動させる様子も無い。判断としては正解なのだが……何もサポートが無い状況での1対2は正直辛い。
どうにか突破口は無いものか……。
「防戦一方ですね、勇者」
「無駄口を叩くな。こんな低レベルの輩を2人がかりで殺れない時点で異常だ。どんな権能を有しているか分からん」
こちらのレベルは分かっているが、どんなユニークスキルを持っているかは分かっていないらしい。
そこが唯一の有利な点ではあるが、だからと言ってどうしようもできない。「変幻自在」は戦闘ではあまり役に立たないスキルだし、「万物創造」で何か作り出したところで事態が好転するとは思えない。
悪魔達の連続攻撃を防ぎながら、必死に考える。
案として考えられるのは……両手に持つ聖剣達に魔力を全て注ぎ込み、投擲する事か。外せば負けだが、当たれば勝ちのはずだ。悪魔達は聖剣を嫌がるかのように手に魔力を纏わせて戦っているし、手以外への攻撃は避けようとする動きを見せているからだ。とはいえ、一発勝負はリスクが大きすぎるから却下だ。
他に考えられるのは、中級悪魔を倒した時のように、ケルネティアに聖弾を込めて放つ事。こちらは外しても即座に敗北が決定する訳ではないが、準備に時間が掛かってしまう。その間メリー達が時間を稼げるはずも無いので、結局不可能。
ならばどうすれば勝てる……?このまま攻撃を防ぎ続けていれば、先にこちらの体力が尽きるであろう事は自明だ。権能を奪われたと言っていたナスターニャ神が援軍を寄越してくれるとも考え難い。
脳細胞が焼き切れそうな程考えを巡らせても、一向に答えは出ない。
このままジワジワと体力を奪われ、負けてしまうのか……?
段々と悲観的になりかけた思考を破ったのは、驚く事にリナの行動だった。
「『琴瑟相和』!!」
リナの掌は真っ直ぐ俺の方に向けられており、そこから青い光が放たれる。
「聖剣の光!?」
「どういう事だ!?」
悪魔達はその光を見て警戒心を抱き、一度俺から距離を取る。
その間にも青い光は強さを増していく。
そして、強くなっていった青い光は、レーザーのように俺の胸に飛んできた。しかし、怪我も痛みも無く、不思議と胸が温かい。
ドクン、と心臓が跳ね――青い光の放射が止んだ。
「何の権能です?」
「見覚えの無い権能だな……油断するな」
何の権能、とはこちらが訊きたい。
リナはそんなユニークスキルを持っていなかったはず――いや、俺の「万能鑑定」だって、力が若干変化していた。それと同じ事が、ナスターニャ神によって権能を弄られたリナに起きていても不思議ではない。
リナの元々持っていたユニークスキルは、「一撃入魂」「比翼連理」だったはずだ。権能を弄られたとはいえ、力の本質はそう変わっていないはず。
ならば、一撃必殺系の攻撃である前者ではない。もしそうであるなら、俺は先程の光で胸を貫かれて死んでいるはずだ。
つまり、今のユニークスキルは後者の変化形。元の効果は知らないが、字面からして親しい人と繋がるような感じだ。ということは、先程の光は、俺とリナを繋げるもの?
そこまで思考が達するとほぼ同時に、脳内に声が響く。
『あ、あー……ちゃんと成功したようね』
他でもないリナの声だ。しかし、少し離れた位置に立つリナは口を動かしていない。当然、腹話術とかそんなものではないはずだ。悪魔達は依然として権能を見破ろうと警戒を続けているのだから。
『慣れるまでは念話は難しいかも。できそう?』
念話……?テレパシーみたいなものか?
心の中で喋るイメージでやってみよう。
『……あー、聞こえるか?』
『ええ、聞こえるわ』
どうやら方向性は正しかったようだ。
無事念話が使えるようになったという事で、リナにユニークスキルについて尋ねる。
『これはどういうスキルなんだ?』
『そうね……簡単に言えば、あなたと私のレベルが合算された力を得ている、という感じかしら。まあ正確には合算っていう程は強くなっていないでしょうけど……ともかく、あなたはさっき以上に強さになって、私はそれと同じ強さになったの』
『そんな事が……中々チートだな……』
まあともかく、これならば状況を打開できそうだ。1対2の状況が改善され、2対2になるのだから。
『ああ、それと私の短剣を作ってくれない?魔法オンリーで戦うのは――』
「分かったぞ!さっきのは時間稼ぎのハッタリだな!!」
リナの念話の途中で、壱の悪魔が叫んだ。
念話は俺達以外には聞こえないので、未だに何も起きていないと思っているらしい。
「さあ、どうだろうな?」
リナ用の短剣を生成するための時間稼ぎに、会話を誘おう。
「ふん、よく虚勢を張る事ができるな!貴様、今がギリギリだろう!」
短剣を生成するために、左手のデュランダルを地面に刺す。
(『万物創造』:魔短剣)
聖短剣だと勇者ではないリナが扱えない可能性があるので、魔短剣を生成してみた。
「ギリギリじゃないかもしれないぞ?隠された力が目覚めているかもしれない」
「面白い勇者ですね。未だ権能を見せない訳は分かりませんが、そろそろ始末するとしましょう」
「なんだ、もう終いか?まあ、ハッタリ勇者に用は無い、か……」
どうやら悪魔達はもう戦いに飽きてしまったようだ。必殺の一撃でも放つらしい。
悪魔達が距離を取りながら詠唱を始めたので、左手に持っていた魔短剣をリナに向かって放り投げ、デュランダルを地面から引き抜く。
無事リナが魔短剣を受け取ったのを確認したと同時に、詠唱をする悪魔を止めるべく走る。リナの方は魔法を選択したようで、短杖を振るっている。
「――♪、死の一撃」
弐の悪魔の方が先に魔法を放ってきた。壱の方の詠唱を完遂するための時間稼ぎか?
放たれた魔法を、魔力の籠もったデュランダルで斬り伏せる。これはギーナス氏に教わった事なのだが、魔力を込めた武器であれば魔法を斬る事ができるのだ。
弐は魔法が斬られるのが想定済みだったのか、捨て身で時間稼ぎをするべく徒手で攻撃を仕掛けてきた。
先程よりも力が向上したとはいえ、上級悪魔を一瞬で斬り捨てる程のパワーは持ち合わせていない。これはまずい……。
俺が弐の悪魔と接近戦を演じ始めた直後、リナの詠唱が終わり、リナの短杖から雷が放たれる。
「――♪、雷撃」
放たれた雷は壱の悪魔の体を焼くが――しかしその詠唱が止まる事は無かった。
「――♪、死化の波」
壱の悪魔の体が灰色に発光し、光の波が広がる――その直前。
「聖防御!」
メリーの魔法が放った光が、俺達の体を優しく包み込んだ。
壱の悪魔から放たれた灰色の光の波は俺やリナの体に接触し――そのまま何も起こらず通り抜ける。
「チィッ!光の防御か!」
「メリー、ナイス!!」
弐の悪魔の腕をデュランダルで斬り飛ばしながら叫ぶ。続けてすぐにエクスカリバーを振るい、弐の悪魔の心臓を突き刺した。
「ぐっ……見事、です……」
弐の悪魔は、そのまま黒色の粒子となって消えていった。
残るは、壱の悪魔のみだ。
俺は油断無く2つの聖剣を構え直し、リナも魔短剣を構えて間合いを詰めている。最早この状況では、敗北は有り得ないと見ていいだろう。
壱の悪魔もそれを悟ったか、低く笑う。
「クハハ……流石に今回は分が悪いか。ここは退くとしよう」
「待てッ!!」
壱の悪魔を殺そうと右手を振るうが、エクスカリバーは空を切るのみだった。
どうやら出現した時と同様に、空間を歪ませて消えてしまったみたいだ。
「……まあ、生き残っただけ良しとするか……」
俺はそう呟くと、疲れを癒すために地面にドサッと座り込んだ。
ちなみに、琴瑟相和の日本語読みはきんしつそうわです。




