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31 ナスターニャ(2)

 今夜20時にもう一話投稿予定です!

 一通りの疑問を脳内でまとめ終えた俺は、ゆっくりと口を開く。


「えーと……まず、俺達をどうやってここに連れてきたんですか?」


『簡単な事ですよ。『受神の巫女』の持つ『受神』スキルを利用したのです』


 創造神の話を要約すると、「受神」スキルは神の側から座標を特定したり、信号を送ったりする事ができるらしい。

 神託をするのに必要な「神託」スキルと何が違うのかと尋ねたところ、双方向の通信機能は持ち合わせていないとの事だった。


『それと、『受神』スキルは普通の手段では手に入れる事ができません』


「なるほど……どうやったら手に入れられるんです?」


『私の眷属たる獣人やハイエルフの中で、特に魂の器が優れている者の階位が上昇すれば手に入れる事ができます』


「……階位?」


『あなた達で言う、レベルの事ですよ』


「ああ、なるほど」


 それよりも、獣人やハイエルフが創造神の眷属であるという事に驚きだ。詳しく聞いてみたいが、時間はあまり長くないという話だったので、先に質問を済ませてしまおう。


「では、何故メリー――俺達と一緒に行動していた巫女を連れてこなかったのですか?」


『それは単純な事ですよ。あの者がナユリエの巫女だからです。巫女という存在は、広義では眷属と言ってもいいものです。彼女をここに招けば、より正確な座標が特定されるでしょう』


 なるほど……敵対するナユリエ神の身内だから呼びたくなかったと。


「先程の青い光はなんなのですか?」


『ああ、それはあなた達の帯びる権能を私に帰属させたのです。安心してください、使い勝手などはそこまで変わっていませんし、むしろ前より強力になっているはずです』


「ほう……」


 まあ、楽して強くしてくれたという事ならそれでいいか。

 ここではスキルを試せないっぽいし、試すのはお預けだな。


「先程、創造神……様は、俺達に協力者になって欲しいと言いましたが……具体的に何をしてほしいのですか?」


『ナスターニャ、で結構ですよ。そうですね、特に今すぐアレコレして欲しいわけではありませんが……強いて言うならば、階位を上昇させ、権能を成長させておいて下さい』


「階位の上昇は分かりましたが……権能の成長とはどうすればいいのですか?」


『ひたすら権能を扱うのみですよ。使えば使う程権能は成長し、また馴染んでいきます。とはいえ、あくまでも貸与物ではあるので、私以上に上手く扱う事は難しいでしょうが……』


 なるほど。

 それならば、これまで通りに過ごしていけば大丈夫そうだ。既にユニークスキルは何度も使ってきているし。

 リナの方は全然使っていないようだが、まあ追々やっていけばいいだろう。


 ああそうだ、魔神の言っていた『使い過ぎは危険』の基準を聞いておこう。


「転生する際に、権能を使い過ぎるのは危険と聞きましたが……具体的にはどれくらい使うと危ないのですか?」


『危険……ですか?確かに器の小さな者が過剰に権能を使用するのは危険ですが……あなた達はそれには当てはまりませんよ?』


「「え?」」


 想定していなかったナスターニャ神の返しに、俺もリナも素っ頓狂な声を出してしまう。

 どういう事だ?


『あなた達の器は、権能を2つ3つ帯びた程度では埋まらないという事ですよ。魔神――ナタリエがそのような嘘を吐いたのは、昇神を防ぐためでしょうかね?もしくは、あなた達がこちらの世界に来てから成長した、という事も考えられますが……その線は薄いでしょうね』


 魔神の名前はナタリエと言うのか……ナユリエ神に似ているな。

 おっと、そんな事よりも大事な事が聞こえた気がするぞ。


「魂の器は成長するのですか?」


『ええ、しますよ。とは言っても、滅多な事では成長しませんね。何か心に深い傷を負ってから立ち直ったりと言った事が必要です』


「…………」


 リナの方はそれな気がしてきた。

 だが、俺の方は思い当たる節は無い。前世ならともかく、こちらの世界に来てからは特に精神的な傷を負った覚えはない。

 まあ、分からない事を考えてもしょうがないか……。


『長引きましたね。そろそろ退かなければまずいでしょうか』


「え?それは魔神……ナタリエ神に居場所がバレたという事ですか?」


『ええ、どうやらそのようです。眷属がこちらに向かおうとしていますね』


「えぇ……」


 まだそこまで強くなっていないのに、神の眷属なんて強そうなものと戦うのはごめんだ。

 ナスターニャ神も権能が奪われて本調子では無いようだし、確かにここは退散した方が良さそうだ。


『私はあなた達を元の場所に送還してから退くとします。……ああ、言い忘れていた事があったのですが。あなた達の仲間の巫女に、ここでの会話は話さないようお願いします。そうすれば、ナユリエにも筒抜けになってしまいますので』


「分かりました……あの、もう一度話す手段はあるんですか?」


 時間があまり無いようだが、これだけは聞いておかねばならない。

 だが、返ってきたのは要領を得ない言葉だった。


『いずれ、時が来れば再び相見える事が叶うでしょう。それまでに私達がどちらも生き残っていれば、ですがね。……さあ、お行きなさい。あなた達の旅の道のりに幸多からん事を!』


「いずれってどういう――」


 詳しく訊こうとしたところで、ここに来た時にも感じた意識が薄くなっていく感覚を感じた。どうやら本当に時間が無いようだ。

 意識が完全に途絶える直前、ナスターニャ神の言葉が聞こえた。


『ああ、言い忘れていましたが、そちらにもナタリエの眷属が向かっていますので、ご注意下さい』


 ――ちょっと、それを最初に言ってくださいよ!!





「「――ッ!!」」


 バッ、と俺とリナが同時に体を起こす。

 どうやらここは馬車の中で、無事に戻ってくる事ができたようだ。隣のリーニャはまだ目が覚めていないが、先程と同様に少し時間が経てば覚醒するだろう。


「あー!!無事だったのね!!」


「ああ、メリー……まあ、無事だけど」


 周辺の捜索を行っていたのか、少し疲れた様子のメリーが顔を出した。

 どちらも無事で何よりではあるが……眷属とやらが来るのならば、戦闘の準備をしなければならないだろう。

 顔を見合わせた俺とリナは頷き合う。


「メリー、ここに敵が来る。戦闘準備を」


「ええ、ちょっとどういう――」


 その言葉を最後まで聞く事は、残念ながら叶わなかった。

 馬車の前方の空間が歪み、2体の悪魔が現れたからだ。


「魔神様の眷属黒の壱、ここに参上!」


「魔神様の眷属黒の弐、ここに推参!」


 ミラーノ市の中級悪魔と違って、言葉を流暢に喋るようだ。

 いや、現実逃避気味な思考をしている場合ではない。とにかく、馬車の中にいるのは危険だ。

 聖装備一式の入った鞄に手を突っ込み、『装着』と叫ぶ。青い光が瞬き、一瞬にしてアイギスとイージスが装備される。そのまま乱雑にエクスカリバーを取り出し、引き抜きながら鞘を剣帯に留める。

 一連の動作はかなり素早く行ったつもりだが、それでも悪魔達は見逃してくれなかった。


「「死毒の闇(デッドリー・ポイズン)!!」」


 俺が装備を装着する間の僅かな時間に詠唱を完成させ、同一の魔法を放ってくる。


「避けろおおおぉぉぉ!!!」


 反射的に大声で叫ぶ。

 メリーは既に馬車から離れているのは確認できているので、後はリナとリーニャだ。リナには申し訳無いが、意識を失っているリーニャを担いで馬車から飛び出すべく踏み込む。

 リナの方は素早く行動していたようで、俺が装備を漁っている間に馬車から飛び降りたようだ。判断が早くて助かる。


「――チッ!!」


 リーニャを担いで逃げようとしたが、もう魔法は目前まで迫っている。

 仕方なく舌打ちをしながら、リーニャを後方に放り投げた。多少痛いだろうが、死ぬよりはマシなので我慢してほしい。

 リーニャ―を放り投げた直後、イージスを前方に構える。これで防げるのかは分からないが、当時低レベルだった俺が中級悪魔の上級魔法を防げたので、今回も期待するしかない。


「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 実体を持たない闇のはずなのに、こちらを強く押してくる感触がある。

 死の毒を纏った闇とイージスの拮抗は10秒程続き、やがてそれは相殺という形で決着した。

 儚い破砕音を鳴らしながら崩壊していくイージスを一瞥し、鞄からデュランダルを引っ張り出してすぐさま馬車を降りる。

 着地と同時にデュランダルの鞘を引き抜き、地面に投げ捨てる。申し訳無いが、エクスカリバーと違って剣帯に留める時間は無いのだ。


「ほう、我々の上級魔法を防ぐとは、愚神の眷属も中々やるようですね」


「神の眷属になったつもりは無いんだが……」


「ハッ、堂々と権能をその身に宿しながら韜晦(とうかい)しようなどとは、甚だおかしいぞ」


 悪魔の癖に随分と難しい言葉を使うものだ……。


「御託はいいです、早く殺してしまいましょう」


「そう焦るな。まあ、精々楽しませてもらおう」


 悪魔達は素早く会話を交わすと、顔を見合わせて頷き、そしてこちらに向かって突撃してきた。

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