28 クェート市(2)
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記念の本日2話目の投稿です!
「ふぅー……」
俺用に与えられた部屋のベッドに横になる。
メリー、リーニャ、リナの3人は大部屋で、俺だけ1人用の小部屋だ。
部屋に案内される前にイリーナ嬢が同じ部屋に泊まらせようとする、というハプニングもあったりしたが、メリーとリナの協力もあってどうにか回避できた。
そしてもう間も無く夕方になるということで、夕食の時間までは自由に過ごすよう言われている。
とはいえ、城の中を彷徨くのも憚られるので、ベッドに倒れているというわけだ。
「ハリー様、お夕食のご用意ができました」
「分かりました」
メイドさんの呼ぶ声に従い、ベッドから起き上がって部屋を出る。
これまで宿屋か野営だっただけに、城での生活とは慣れないものだ。
◇
「うわー、豪華なお料理ですね……!」
「美味しそう」
「作るの大変そうね……」
三者三様の感想を漏らすメリー、リーニャ、リナの3人。
イリーナ嬢やクェート伯爵は既に席に着いていたので、慌てて俺達も座る。俺の席がイリーナ嬢の隣なのは、ツッコまない方がいいのだろうか……。
それにしても、6人だけとは寂しい。イリーナ嬢のご両親である前クェート伯爵と伯爵夫妻が亡くなられたからだろうが、それにしても兄弟が誰もいないというのは寂しいだろう。せめて、この屋敷にいる間ぐらいは甘えさせてやった方がいいのかもしれない……。
そんなことを考えている間に周りはもう食べ始めていたので、「いただきます」をして俺も食事に手を付ける。
修学旅行で泊まったホテルよりも豪勢なコース料理だ。あれもあれで庶民的な俺には豪勢に感じられたが、これは別格だ。
これは牛肉のステーキだろうか?いや、猪肉か……?馬鹿舌過ぎて違いが分からないが、とにかく美味い。
そばに置いてある高級そうな赤ワインも一口……少し酸っぱいけど美味しい!
昔親の飲んでいた酒を一口啜った時は苦さに耐えられなかったのだが、このワインは何度も飲みたいぐらい美味しい……。
そう感じてグラスに入っている分をグイッと飲み干すと、隣で見ていたイリーナ嬢が微笑んだ。
「ふふ、もう一杯いかがですか?」
「あ、ありがとうございます……」
なんだか恥ずかしくなりながら、イリーナ嬢直々にお酌をしてもらう。
クェート伯爵の射殺すような視線を感じる……怖いです。あ、イリーナ嬢の視線が向いた途端に目を逸らした。
イリーナ嬢に入れてもらった赤ワインを飲みながらチラリと横を見ると、あちらの3人は楽しそうだ。
「このステーキ、美味しい!」
「リーニャ、食べ過ぎよ……もう少し遠慮しなさい」
「ふふ、このワイン美味しいですねぇ……」
……俺も混ぜてくれないかなぁ。
はぁ……と溜め息を吐いて、俺は残りの食事を楽しんだ。
◇
食事を楽しんだ俺達は、浴場に向かった。
当然浴場は男女に分かれているので、メリー達とは別だ。
イリーナ嬢が自室にある風呂に入れようと誘ってきたが、流石に断った。クェート伯爵の今にも殴り掛かってきそうな視線が怖かったとか、そういうわけではない。決してだ。
そんなわけで、今どうなっているかと言うと……クェート伯爵と2人きりで、この大きな浴場に入っている。
はっきり言おう、滅茶苦茶気まずい……。
「おい」
どうしようかと首を捻らせていると、クェート伯爵の方から話しかけてきた。
「は、はい。なんでしょう?」
「貴様、ハリーと言ったな。もし儂のイリーナを泣かせでもしたら、承知せんからな!」
「は、はい!」
え、何これ?遠回しな結婚許可?
腕を組みながら目を閉じているクェート伯爵の心情が読めない……。
「それとだ!もしイリーナと婚約したければ、せめて男爵位を持って来い!さもなくば許さん!分かったか!?」
「は、はぁ……」
「なんじゃ、その気の無い返事は!!」
「はい!」
え、本当に何、これ?
俺の返事に満足したのか、クェート伯爵はふん、と鼻を鳴らして黙ってしまった。
えーと……マジでよく分からない。男爵になったら婚約させてやるよってことかな?
アリス姿でミラーノ市にでも出向けば男爵位ぐらい貰えそうだけど、別に要らないしな……。
クェート伯爵の言葉の意味を考えている間に、当の本人は浴場から出て行ってしまった。
「うーん……分からん!!あの人は何が言いたいんだ!」
俺の心の底からの叫びが、浴場に木霊した。
◇
お風呂から上がり、自室へと戻る。
風呂上がりにコーヒー牛乳でも飲みたかったが、こちらの世界にはそんなものは無さそうだった。そもそもコーヒーがあるかどうかすら疑わしい。
代わりに水魔法で生成した水を一杯飲んでおいた。この水はウォーターサーバー並みに冷たいし洗浄されているので、それなりに美味しい。風呂上がりで喉が渇いているところには、ただの水でさえ極上に感じられるのだ。
与えられた自室に入り鍵を閉め、エクスカリバーなどが入った鞄が漁られていないか確認する。うん、大丈夫だ。
これらの超性能の装備が悪党にでも奪われたらシャレにならないのである。それに、メイドさんにでも覗かれたりしたら俺の正体がバレてしまう。
「うーん……やること無いし、ストレッチでもするか」
買った本は全て読み切ってしまったのだ。
一応この城にも書庫はあるらしいのだが、立ち入り許可を貰うのを忘れていたので、向かうわけにもいかない。今から許可を貰いに行こうにも、クェート伯爵とは顔を合わせづらいし、この時間にイリーナ嬢の部屋に行くのは憚られる。
なのでストレッチでもしてから寝ようということだ。
ラジオ体操や柔軟体操を10分程して、眠りに就こうとベッドに倒れようとしたところ、コンコン、と扉がノックされた。
「どうぞー」
少し大きめの声を出して、扉を叩いた人に聞こえるようにする。
すると、ガチャリ、とドアが開き、揺れる金髪が目に入った。いや、後ろに黒髪と水髪も見える。
「お邪魔しまーす!」
「やほ」
「お、お邪魔します……」
入ってきたのは、メリー、リナ、イリーナ嬢の3人。
ん……?リーニャはどうした……?
「リーニャはどこに?」
「リーニャったらご飯をたくさん食べたからかやけに眠そうだったから、寝かせてきたわ」
「寝顔が可愛かったですよ~」
俺の質問にメリーとイリーナ嬢が答えている間に、リナがサッとそばにやってきて、俺のベッドに座った。動き早すぎない?
そのリナを見て、2人は出遅れた……!みたいな顔をしている。
「それで、何用で?」
「まだ眠るのには少し早いので、何か遊戯でもと……」
そう言うイリーナ嬢の手には袋が握られており、彼女は座りながら丸机に袋の中身を置いていく。
将棋にチェスといった慣れ親しんだものから、よく分からないカードまであった。前者は日本人が持ち込んだのだろうが、後者はこの世界のゲームだろうか?
「ハリーさんは、マグヌスはご存知でしょうか?」
「いえ、初めて見ますね」
俺の視線に気付いたのか、イリーナ嬢が俺の疑問に答えてくれた。
どうやら見慣れないカードの束は、マグヌスという名称らしい。
リナは俺と同じく知らなさそうだが、メリーは知っているようだ。
「では、何をしましょうか?」
「あ、私チェスしたい」
袋の中に入っていたものを全て出し切ったイリーナ嬢が訊くと、すかさずリナが答えた。
チェスか……あまり上手くは無いけど、好きでそれなりにやっていたことがある。
「チェスですか……私は少し苦手なので、他の方にお譲りします」
「私はやったことないからルールが分からないわ……」
イリーナ嬢とメリーの2人にフラれ、リナが救いを求めるように上目遣いでこちらを見る。
「昔結構やってたから、相手になるよ」
「やった」
一気に上機嫌になったリナが、机の上から他のものをどかしてチェス盤を置く。盤のデザインは見慣れないものだが、形は見知ったそれだ。
さて、下手の横好きがどこまで通用するかな……。
30分後。
「……参りました」
俺の駒達は、リナによって蹂躙された。
「歯応えが無いわね……」
久しぶりで鈍っていたというのもあるが、それはリナも同じはずだ。ということはつまり、ただ単に元の実力がリナの方が圧倒的に上だった、というだけだ。
悔しい……!
「もう一戦!」
「いいわよ、何度でもかかってきなさい」
その日の夜は、日付が変わる頃までリナによって蹂躙された。
俺のキングはボコボコにされ、リナにチェックを言うことすら叶わなかった。
リナさん、強過ぎます……。




