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23 湖の盗賊(2)

ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!励みになります!

 盗賊達をライン市の衛兵に突き出し、そのままライン市で昼食を済ませた俺達は、盗賊達のアジトに向かっている。

 現在は徒歩での移動だ。理由は2つで、1つ目は湖の近くでまた盗賊に襲われたら面倒なこと、2つ目はリナが動けなくなってしまうからだ。先程のような数人との戦闘であれば俺1人でもなんとかなるが、流石にアジトを強襲するのならばリナの戦力が必要だ。


「メリーは後方で魔法援護、リーニャはメリーの護衛、リナは俺の後ろで自由に立ち回ってくれ」


「はーい」「分かった」「オッケー」


 三者三様の返事を確認し、視線を前方に戻す。

 最初のリナの偵察通り、洞窟の入り口には警備の男が2人待機している。

 なるべく音を立てずに始末するのが最善だが、今はハリーの姿なので魔法銃ケルネティアは持ってきていない。となると、魔法に頼るのが一番良いだろう。


「メリー、リナ、アイツらを同時に無力化してくれ」


「はーい。じゃあ私、左やるわね」


「ん、了解」


 2人がそれぞれの詠唱を始めたのを確認し、男達の動きに変化がないか警戒する。

 これは「映写魔法」スキルを取得してから知ったことなのだが、どうやら魔法系のスキルを持っていてかつ高レベルの者は、魔力の動きのようなものを感知できるらしい。俺はスキルを取得したてだからよく分からないが、メリーは最近になって見えるようになってきたと言っていた。

 もしかしたら男達が魔力の動きに気付くかと思ったが、杞憂に終わりそうだ。そうこうしている内に、2人の詠唱は終了している。


「――♪、聖なる槍(ホーリー・ジャベリン)」「雷撃(ライトニング)


 精霊魔法の方が詠唱は短いようで、リナはメリーの詠唱が終了するまで待機していたようだ。

 2人の魔法はほぼ同時に炸裂し、それぞれの狙いを違わず命中させた。雷に打たれた男はもう1人よりも若干傷の度合いが大きそうだが、死ぬような気配はないので大丈夫だろう。


「リナ、行くぞ」


「うん」


 メリーとリーニャには少し離れて付いてくるように言って、リナと2人で洞窟に近付く。

 警備を倒したことがバレる前に、可能な限り奥まで入っておきたい。


 洞窟の入り口まで来ると、中から喧噪が聞こえてくる。酒宴でもしているのか、楽しそうな声だ。これなら、気付かれていないだろう。


 なるべく足音を立てないように、洞窟内に入る。

 壁からコッソリと顔を出し、「覗き見」と「聞き耳」のスキルで中の様子を探る。


「ヒュー、この酒美味(うめ)ぇなあ!」


「ほんとだぜ。やっぱ貴族の荷物は一味違うな!」


「なあ、貴族さんよぉ!」


 ギャハハ、という笑い声が響く。

 盗賊達の話しぶりからするに、ここからは見えていないがどうやら貴族が捕まっているようだ。

 これは早く介入した方がよさそうだ。


「リナ、大技かませるか?そのタイミングで中に入りたい」


「分かった。火霊(サラマンダー)を出す」


 小声でリナが詠唱を始める。

 その間にも油断なく盗賊達の様子を窺う。


「おい、新しいのはねぇのか?」


「こんだけですぜ。後は金しかねぇです」


「チッ、まあいいか。そんじゃ、お楽しみの時間と行くか?」


「良いねぇ!俺一番~」


 時間的余裕はあまりなさそうだ。

 急かす意味を込めてリナに視線を送ると、詠唱の速度がワンテンポ早くなり、数秒も掛からずに終了した。


「――♪、火霊召喚(コール・サラマンダー)


 リナの短杖(ショート・スタッフ)から赤いトカゲのようなものが現れ、キエェェェ!と鳴き声を上げながらドスドス走っていく。これが火霊(サラマンダー)のようだ。


「なんだぁ!?」


「入り口の方からですぜ」


 中の盗賊達が異変を感じたようだが、それは少しばかり遅かった。


猛炎(レイジング・フレイム)


 リナから発せられた命令を忠実に受け取った火霊(サラマンダー)は、その口から大量の炎を吹いた。

 盗賊達が慌てふためいたそのタイミングで、俺は陰から飛び出す。


(あっち)ぃ!!」


「燃えてる!!なんだこれ!!?」


「助けてくれぇぇ!!」


 火霊(サラマンダー)は期待通り盗賊達の注意を引き付けてくれているため、まだ俺の存在はバレていないようだ。

 焼死体が生まれないことを祈りながら、壁沿いを素早く移動して頭目らしき奴を探す。

 撒き散らされた炎によって騒乱状態の洞窟内で、数人だけ落ち着いている奴らがいる――目が合った。


「アイツだ!()れ!!」


「「「オス!!」」」


 頭目らしきスキンヘッドの男と、それに付き従う3人の男。恐らくその3人は幹部だろう。

 幹部3人は俺を排除しようとこちらに向かってくるが、頭目は部下達に罵声を浴びせている。それを受けて冷静になった何人かが消火作業を始めた。

 急がなければ、数が増えて厄介だ――。


「喰らいな!!」


 幹部の1人が戦斧(バトルアックス)を振りかぶりながら叫ぶ。

 「弾き防御(パリィ)」スキルの補助を借りて攻撃を受け流し、体勢が崩れたところに左手で顎に掌打を叩き込む。


「ぐはぁっ……!!」


 すかさず他の2人がそれぞれの得物で攻撃を仕掛けてくるので、前方に転がって脱出する。

 その動きを予想できなかったのか2人とも面食らっているので、左側にいる幹部に足払いを仕掛ける。


「うおおっ!」


 意識外の攻撃に対応できず、幹部は派手な声を上げながら床とキスした。

 これで残る幹部は1人だ。


「てめぇら、坊主1人に何てこずってやがる!」


 最後の幹部を始末しようとしたところ、頭目が叫びながら近寄ってきた。

 倒れている内1人は気絶しているが、もう片方は痛みで動けないだけだ。頭目の強さは不明だが、頭目との戦闘に時間を使っている間に回復されると困る。


「死ねぇッ!!」


 頭目が横薙ぎに振るう戦斧(バトルアックス)を、屈んで避ける。

 それに合わせて前方にいる幹部が突き技を放ってくるので、下から剣を叩くようにして攻撃を弾く。


「チィッ……!」


 頭目が舌打ちすると、その手に持つ戦斧(バトルアックス)から紫っぽい光が漏れ出す。光は頭目の手元から徐々に刃部分に集まっていく。


 ――魔法道具(マジック・アイテム)?いや、魔斧?


「おい、ゲッゴ!アイツの防御を崩せ!」


「オス!!」


 ゲッゴと呼ばれた幹部は頭目の言葉に返事を返すと、渾身の上段斬りを放ってくる。

 その攻撃を剣を倒して受け流すと、直後頭目からの攻撃が――。


 ――危険!


 「危機感知」スキルが警鐘を鳴らす。

 これまで微塵も感じられなかった危機感を感じた俺は、レベル差による暴力で鍔迫り合い中のゲッゴの剣を破壊する。


「なっ!!?」


 ゲッゴが驚愕の声を上げるが、それは無視して体を横に倒しながら頭目の攻撃を受ける。


 カシャン!!


 頭目の振るう戦斧(バトルアックス)と接触した鉄剣は、硝子のようにあっさりと砕け散った。


「嘘ぉ!?」


 とはいえ、体を倒していたためにかろうじて攻撃は避けることができた。


「けっ、初見で凌がれたのは初めてだぜ。てめぇ、どっかの貴族の家臣かなんかか?」


「まさか。ただの冒険者さ」


「まあいい。武器を失ってどうする?降参しててめぇの女共を差し出すなら、幹部として使ってやるぜ?」


「降参するのはお前じゃないか?周りを見てみろよ」


「はぁ?何言って――」


 続く言葉は飲み込まれた。

 なぜなら、リナの放った火霊(サラマンダー)によって、洞窟内は壊滅状態だったからだ。生き残っているのは数人で、その数人も火傷を負って狂ったように水を求めて駆け回っている。

 その代償としてリナは思うように動けないようだが、盗賊達はそんなことには気付いていない。


「チッ、中々やるようだな。だが、それでもこっちはまだ3人いるぜ?武器のないお前と動けねぇ女を始末するぐれぇ簡単だ」


 頭目の言葉を受けて、倒れていた幹部の1人がようやく起き上がった。


「へぇ、そうかな?」


 頭目にニヤリと笑って見せた後、俺はスキルを発動させる。


「『万物創造(クリエイト)』:聖剣デュランダル」


 俺の何も無い手元に、黄金の長剣が現れる。

 デュランダルは、「長久の刀剣」や「不滅の刃」の意を持ち、大理石に叩きつけても折れずにむしろ大理石を両断した、という逸話を持つ程の硬度を誇る。デュランダルならば、先程の鉄剣のように一瞬で破壊されることはないと思いたい。


「初めて見たが、『異空間収納』っつうやつか……面倒(めんど)くせぇな」


 俺のスキルを勘違いした頭目だったが、舌打ちをした後すぐに幹部に指示を出した。


「バザン!あっちで伸びてる女を捕まえろ!」


「うす!!」


「させるかよっ!」


 バザンと呼ばれた幹部が走り始めたところで、俺は44レベルの力を活かした容赦の無い踏み込みから、渾身の一撃を放つ。


「ギャアアア!!!腕があああああああ!!!」


 デュランダルに右腕を斬り飛ばされたバザンは、切り口を押さえながら悶絶する。

 頭目はバザンを慮るわけでもなく、デュランダルに目が行っていた。


「聖剣!?てめぇ、勇者か!?」


「さあ、どうだろうね」


 「万物創造(クリエイト)」を使うにしても、もう少し別の武器を用意した方が良かったかもしれない……。

 いや、今は後悔している場合ではないか。


「さて、どうする?頼りの部下はあと1人だけだぞ」


「チッ、クソ野郎が……っ!」


 頭目は悪態を吐きながら、自慢の戦斧(バトルアックス)を全力で振るう。

 俺はその攻撃を、デュランダルの腹に手を当てて防ぐ。豪快な衝突音を鳴らした2つの武器は、どちらも破壊されることなく鍔迫り合いを始める。


「なっ……!何故ぶっ壊れねぇ!?」


「さあ、なんでだろうね?」


 驚愕する頭目を煽るような口調を作りながら、剣を押し込んでいく。

 スキンヘッドで力自慢のような見た目をしているが、所詮レベルは俺より低いため、膂力は俺の方が上だ。どんどん押し込まれていく。

 最後に残った幹部は洞窟内の惨状と目の前の戦いを見て戦意を喪失したのか、武器を地面に捨てて動く様子がない。好都合だ。


「うおおおおおおお!!!」


 頭目が気合の叫びを上げる。


 数秒の拮抗の末……ピキ、と情けない音を立てて、戦斧(バトルアックス)の刃にヒビが入る。


「んなっ!!!?」


 みるみる内にヒビは広がっていき、刃先から漏れていた紫の光も急速に弱くなっていく。

 直後、強烈な破砕音を立てて、戦斧(バトルアックス)が壊れた。


「うわあああああ!!!」


 本気の力で押し込まれていたデュランダルは止まることを知らず、そのまま頭目の首を斬り飛ばした。

12/02 >スキル部分に「」もしくは『』を付けるよう変更。

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