22 湖の盗賊(1)
ヒエン村から出て、馬車で待機するメリーとリナの元に着いた。
「お帰りー」
「ただいま。リナは大丈夫か?」
「大丈夫。メリーに何回か治癒してもらったから」
一回だけでなく数回したことで、ある程度体調は回復したらしい。
リナが「喉渇いた」と言ったので、早速購入した魔法道具を手渡した。
「おー、浄水袋か」
どうやら、正式名称は浄水袋というらしい。
リナが浄水袋で水を飲むのを背景に、2人に商人から聞いた盗賊の話をした。
「この辺りの土地は分からないわ」
「湖なら、たぶん場所分かるよ」
メリーは知らない様子だったが、リナは知っているようだ。
地面に木の枝で簡易的な地図を描いてもらい、おおよその位置が分かった。ヒエン村からはさほど離れていない。
「じゃあとりあえずここに行ってみましょうか。盗賊が食いついてくれるかもしれないし」
「盗賊が食いつくって……積み荷もなんもないのに来るか?」
「美女2人が乗ってれば襲ってくるでしょ、たぶん」
メリーが自分とリナを指差しながらそんなことを宣うので、軽くデコピンをしておく。
積み荷をどう偽装するか……と腕組みをしながら悩んでいると、リナがちょんちょんと俺の腰を突いた。
「どうした?」
「たぶん、積み荷はいらないよ。『異空間収納』っていう便利なスキルがあるから」
「なにそれ?」
リナに詳しく話を聞いてみた。
「異空間収納」スキルとは、いわゆるゲームのアイテムボックスやストレージみたいなものらしく、無制限というわけではないがかなりの量の物品を輸送コストゼロで運搬できるらしい。端的に言って、俺にもください。
裕福な商人や貴族なんかは、そのスキルを持った奴隷を連れていることが多いらしく、積み荷がなくてもさして不自然ではないそうだ。
「便利そうだな、そのスキル」
「うん。でも、私達は当分使えないよ」
「なぜに?」
「えーとね。例えば、『魔力撃』っていうまあまあレアなスキルがあるんだけど。そういういわゆるアクティブスキル?ってやつは、誰かに教えてもらえないとリストに出ないんだよ」
「へ~……」
リナ曰く、彼女の持つ「精霊魔法」もそれに近いものらしい。
まあともかく、「異空間収納」スキルを持っている人がいれば、それとなく教えてもらおう。
脳内のメモ帳に刻み込み、休憩を終わらせて湖に向かうことにする。リナの体感距離では1時間もかからない距離とのことなので、今日中に付近の盗賊を討伐できるだろう。
「「出発!!」」
「うえぇ……」
ハイテンションなメリーとリーニャと対照的に、リナは早くも気分が悪そうだ。
◇
今度は1時間も走らずに、件の湖までやってきた。
吐きそうになっているリナの様子を見つつ、周辺の警戒を進める。
「「あっ……」」
直後、俺とメリーは同時に声を漏らした。「索敵」スキルに反応があったのだ。
その反応は最近何度も感じた魔物のそれではなく、ほぼ初めて感じる人間のそれだ。つまり、こちらに敵意を持っていることは確実。ということは、盗賊と見て間違いないだろう。
「来たけど、どうしよう?リナのために止めてあげたいけど、急に止まるのは不自然だし……」
「まあ、走らせとくしかないな……リナ、すまん」
「大丈夫……」
青い顔をしながら頷くリナに申し訳なくなりつつ、鉄剣を装備する。
「戦闘になったら、メリーとリーニャはリナを守ってて」
「はーい」「わかった」
2人に指示を出す。
しばらくの間、無言で馬車が走る。
盗賊達はその間距離を保ったままだったが、ある瞬間、突然距離を詰め始めた。
「来たな……」
「来たね……」
少しして盗賊が肉眼で目視できる距離まで近付いてきたところで、メリーに馬車を止めるよう指示し、飛び降りる。
「ヒャッハー!馬鹿が1人で降りて来たぜ!」
「さっさと殺して、女を捕まえろ!」
人間の反応を感じるのは初めてだったので「索敵」スキルでは分からなかったが、敵は5人いる。人数的にはあちらの方が上だが、質はこちらが上のはずだ。命令口調をしていた男に「万能鑑定」を使ってみても、レベルは14程しかない。
「おらぁっ!」
先頭の男が無骨な剣を振るってくるので、姿勢を低くしてそれを避け、鉄剣で腕を斬り飛ばす。圧倒的なレベル差のお陰か、特に抵抗もなく斬り飛ばすことができた。
「ギャアアアア!!」
「油断するな!コイツ、手練れだぞ!!」
腕を斬り飛ばされた盗賊は痛みに叫んでいるが、幹部らしき男は素早く指示を出している。
この幹部男だけ生かしておけば、あとは最悪生かす必要はない。もちろん可能な限り殺人はしたくないが、先に襲ってきたのは彼らだし、ここは日本ではない。少しずつこちらの世界に染まってきているのを感じるが、仕方がないだろう。
そんなことを考えながら、今度は連携して同時に斬りかかってくる盗賊達の攻撃をバックステップで回避する。「回避」スキルのお陰か、最適な動きが手に取るように分かる。
「チィッ!!」
幹部が大きな舌打ちをしながら次撃を放ってくるが、他の盗賊達は動いていないので、今度は簡単に避けられる。
ついでに軽く剣を弾いてやると、面白いように剣が吹き飛んでいった。「弾き防御」スキルの補助だろうか?
叫び声を上げながら剣を拾おうとする幹部を横目に、他の盗賊達に斬りかかる。
2人を実質行動不能にされたことによる焦りからか、彼らの連携は既に瓦解してしまっている。乱雑に襲い掛かる攻撃を避け、隙が生まれたところにこちらからの攻撃を仕掛けていく。
「うわぁぁっ!」
「ギヤァァ!!」
悲鳴を上げる盗賊達が戦闘の意思を失うまで攻撃をし、そのタイミングで幹部のことを思い出した。
顔を上げて幹部を見ると、剣を手にしたまま固まってしまっている。恐怖からか、それとも仲間が傷つけられているからか。
「あんたはどうするんだ?」
「……降伏する。それ以上ソイツらを傷つけないでやってくれ」
「……いいだろう。武器を捨てろ」
後者が正解だったようで、盗賊の一人の首に剣を押し当てながら命令すると、幹部は素直に自身の剣を捨てた。
チラッ、と後方を見ると、まだリナは回復していなさそうだったので、リーニャを呼んできて盗賊達の武器を回収してもらう。
「メリー!コイツらの止血をしてやってくれ!」
「はーい!」
ついでに、メリーに回復魔法を頼む。ある程度距離が離れていても使えるらしいので、問題はない。
部位を欠損してしまった者は治せないが、そのくらいは代償と思ってもらおう。命が助かっているだけ、盗賊達からは文句は出ないはずだ。
武器の回収が終わったリーニャに縄での捕縛を頼む。
リーニャは若干怯えているが、盗賊達は俺に剣を突き付けられているので、特に抵抗はない。
「リーニャ、コイツだけは別にしてくれ」
「……分かった」
幹部男だけは別で縛ってもらう。縄は余分に用意しておいたので、問題ない。
全員の捕縛が完了したところで、リーニャを馬車に返し、幹部男を少し離れた木陰に連れていく。
「さて……単刀直入に言う。アジトの場所を言え。大人しく言えば、あんたらの命は取らないし、減刑の口添えをしてやろう」
「……本当か?」
「ああ。ついでに言うなら、アジトにいる奴らも可能な限り命を取らないと約束しよう」
この男は部下思いっぽいので、他の盗賊達を引き合いに出せば頷くだろう。
その予測は的中し、男はしばし悩んだ後、素直に情報を吐いた。
「そこの湖の対岸まで行って、少し西に行ったところに洞窟がある。そこがアジトだ」
「そうか。教えてくれてありがとう」
「約束は守ってくれるよな?」
「ああ、当然だ」
幹部男を引きずって盗賊達のところに運んでやり、馬車に戻る。
「リナ、魔法は使えそうか?」
「ええ」
時間が経ったからか体調が回復してきているリナに頼み、精霊魔法で使い魔を出してもらう。使い魔とは視覚の共有ができるらしいので、偵察などには便利だ。
先程の幹部男が嘘をついていないことを確認してもらう。
「……警備の男が2人いるね。中に篝火も見える」
「分かった、ありがとう」
どうやら彼は噓を吐かなかったらしい。ならば、こちらも約束は守るべきだ。
使い魔を出してくれたリナに感謝を伝え、盗賊達の方に戻る。
「さて、悪いがアンタらのアジトを潰す前に、ライン市まで運ばせてもらうぞ」
一言そう声を掛け、盗賊達を馬車の荷台に乗せる。少し苦労したが、高レベルゆえの力強さで乗り切った。
さあ、コイツらの輸送が終わったら、アジトを潰そう。
12/02 >スキル部分に「」もしくは『』を付けるよう変更。




