20 ライン市(4)
11/30 >いくつか表現を変更しました。
俺はブルーノ子爵からの依頼により、ラエン伯爵領内の悪魔崇拝者及び盗賊の討伐を行うことになった。
当初は一人で行おうと思っていたのだが、他の3人が協力する気満々だったので、4人で行うことになった。
徒歩のみで領内を回るのは無理があるということで、メリーに頼んで馬車を購入してもらった。御者をできる者が誰もいなかったので、メリーが購入ついでに1週間程練習して御者をすることになった。
そのため、最初の1週間はメリーを除いた3人でライン市周辺の掃討を行うことにした。
市内から犯罪者を見つけ出す特殊能力などは残念ながら持ち合わせていないので、手分けして捜索を行う。
まず俺は「覗き見」と「聞き耳」の情報収集に適したスキルを使って、裏路地などで密取引をする輩などを探す。また、盗賊などが拠点にしている建物も把握できれば御の字だ。
リーニャとリナは、情報屋や冒険者ギルドなどで情報収集をしてもらう。盗賊退治の依頼などがあればそれを受けてもらい、特になければ情報屋で情報を買うことになる。
「さて、『変幻自在』」
単独行動で盗賊を探すことになった俺は、ひとまずアリスの姿に変身する。エクスカリバーやアイギスなどの本気装備を使うためだ。ただし、狭い路地での行動ということで、イージスは使わない。
装備の装着が完了したので、狭い路地などを探し回る。
酔っ払って寝ているおっさんや、イチャついているカップルなど犯罪には無関係な者が多い。それに、極稀に限度を超えたイチャつきをしている奴らがいるのには参った。そういうことは、屋内でやってほしい。
溜め息を吐きながら路地を探し回っていたところ、城壁付近の路地で目的の連中が見つかった。どうやら、貧民や盗賊などが集まるのは市内の外側らしい。良い情報を得た。
「最近はここの街の守護に亜人が売れるらしいからな……」
「そんじゃ、巡業奴隷商でも襲うか?」
「アリだな。確か次のはそろそろ来るだろ?」
「お頭に言ってみようぜ」
そんな風な会話を交わした後、2人の男達は移動を始めたので、尾行することにした。呑気に犯罪的な会話をするとは、警戒心の足りていない奴らだ。
路地を何度も曲がり、5分程して男達は貧民街のとある建物に入っていった。
建物のドアに耳を押し付け、中の様子が聞こえないか探る。
「注文は?」
「ビーフソテー5人前」
「あいよ」
……どういう合言葉?
ただまあ、合言葉が分かったのでいいとしよう。
(『万物創造』:外套)
リーニャに着せてやったものと同じものを生成する。防刃性能なんかも高いので何かと便利なのだ。
フードを深く被り、建物の中に入る。
「注文は?」
「ビーフソテー5人前」
「あいよ」
先程の男達と同じ注文をすると、隠し扉のようなものを開けて奥に入れてくれた。
盗賊団で合言葉式って、中々に意味が分からない。どういう意図なんだろうか……。
ちょっとした廊下のようなものを通ると、部屋が数個見えてきた。
なんでそんな面倒な仕様にするんだか……。
とりあえず、一番手前の部屋のドアに耳を押し当ててみる。
「…………」
何も聞こえない。どうやら無人のようだ。
次のドアに耳を押し当てても何も聞こえず、3番目のドアは寝息が聞こえるだけだった。
そして4番目のドアにしてようやく、男達の話し声が聞こえてきた。
「巡業商人が次ラインに来るのはいつだ?」
「えーっと……4日後のはずです」
「そうか。ならば、明後日から街道に何人か忍ばせておけ」
「分かりました!」
先程の話を「お頭」とやらにしていたようだ。
男達は話が終わったのか、こちらに近付いてくる。あ、まず――。
「誰だ、おめぇ?」
どこかに隠れる暇もなく、ドアを開いた男と目が合った。
あ、終わった……。
「…………」
無言のジャパニーズスマイルで切り抜けられないかと思い、微笑んでみる。
「お頭!知らねえ奴が入り込んでます!」
「敵だ、馬鹿野郎!殺せ!!」
……無理でした。
お頭の怒号を受けて、男は腰から短剣を引き抜いた。
仕方ない、やるかぁ。
バックステップで男から距離を取りながら、エクスカリバーを引き抜く。
「聖剣――てめぇ、勇者かっ!!」
男がこちらの正体に気付くと同時に、部屋から笛のような音が聞こえてきた。
「敵はどこだぁ!!」
その音が響いた直後、そこら中のドアが開き、短剣を持った男達が現れた。開かなかったドアは、最初の2つだけだ。
こんな騒ぎにするつもりなかったんだけどなぁ……どうしよ。
「死ねぇ!!」
最初に短剣を振るってきた男が叫びながら攻撃を仕掛けてくるので、サイドステップで避けて腹に一撃入れる。
「ぐはぁっ……!」
あれ?そこまで力を込めてないのに、思ったより深く入った。
まあ、最悪立場が上の人間以外は殺すしかないかもしれない。この人数だし、正当防衛ということにしてもらおう。本当はあんまり殺したくないけどね。
「殺れーっ!!!」
お頭の号令かと思ったが、そうじゃないらしい。
ともかく誰かの号令によって、男達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「なんだコイツ!」
「ちょこまかと……っ!」
四方八方から押し寄せる短剣を「回避」スキルの補助で避けつつ、一番近い奴から順に一撃入れていって行動不能にしていく。
悪態をつく前に、連携を取って俺を殺すことを考えた方がいいと思うんだ。コイツら、さっきから全く連携がなっていない。
おまけに、お頭はどこかに逃げたのか一切姿を現さない。
「チッ……!」
「うわぁっ!!いてぇっ!!」
少しずつ数を減らしていき、1、2分も経ったところで残り数人になった。
そのタイミングで、お頭がようやく姿を現した。
「てめぇら、何時間かけてやが――勇者?」
例に漏れず、エクスカリバーの青い輝きを見て舌打ちをするお頭。
お頭の得物は短剣ではないようで、片手半剣のようなものを握っている。
「……ッ!」
お頭は下っ端達のように無駄口をたたくことなく、無音の気合とともに突き技を仕掛けてくる。
イージスを着けていれば簡単に受け流せるのだが、閉所での戦闘を想定していたため今は持ってきていない。
剣で突き技を弾くのはかなり難しいのだが、レベル差もあってか、かろうじて相手の剣を跳ね上げることに成功する。
「ッ!?」
自身の全力突きが一瞬で破られたからか、お頭の表情が驚愕で染まった。
跳ね上げられた腕の下を通り、お頭の首元にエクスカリバーを突き付ける。
「降参しなさい。武器を捨てて大人しくお縄につけば、減刑の口添えぐらいしてあげるわ」
「…………」
抵抗してくるかと思ったのだが、お頭は意外にも素直に武器を捨てた。
一応何か罠があるかもと警戒していたが、特に怪しい動きはせずに縛られてくれた。
これからも全部これくらい楽だといいね。
◇
●リナ・エルフィー視点
ハリーにスキルで作ってもらったマフラーを巻いて口元を隠し、冒険者ギルドに入る。
後ろのリーニャはビクビクと震えながらも、しっかりついてきているようだ。
「そんなに怯えてキョロキョロしてたら絡まれるよ」
「わ、わかった……」
私がエルフなので、リーニャは素直に従ってくれる。
この世界の亜人や獣人はエルフを上に見る傾向があるらしく、幼いリーニャもその例に漏れなかった。
ペットのように後ろをついてくるリーニャを連れて、依頼掲示板を覗く。旅の途中で冒険者カードは作っていたので、目的の依頼があればその場で受けることもできる。
「うーん、なさそうね……」
リーニャは文字が読めないのか、掲示板を見ずに周りを見回している。
一通り見終わって目的の依頼がないことを確認したため、私達は冒険者ギルドを出た。
商隊の護衛依頼なんかはあったが、盗賊の討伐依頼なんてものはなかった。流石にそう上手くはいかないようだ。
ハリーの指示を思い出しながら、続いて情報屋に足を運ぶ。
私はあまり人と話すのが好きでも得意でもないので、押し黙ったまま後ろを歩いてくれるリーニャは都合が良い。もう1人の巫女――メリーはコミュ強だから、一緒にいると少し辛い部分がある。
ハリーに教えてもらった場所についたので、扉を開いて中に入る。
「この街と可能なら付近の、盗賊と悪魔崇拝者の情報を教えて」
「随分危険な話だな……2日後にもう一度来い。全部調べてきてやる」
情報料を払って札のようなものを手渡され、その日は帰らされてしまった。まあ、行ってすぐに情報が手に入る方がおかしいか。
諦めて宿に帰ろうとすると、リーニャが急に足を止めた。
「どうしたの?」
振り向いて声を掛けると、リーニャの視線は肉串を売っている屋台に注目していた。
「はぁ……」
溜め息を吐きつつ、リーニャが見ている屋台まで行って、肉串を2本買う。
「はい」
「……いいの?」
「食べなさい」
肉串の片方を手渡すと、リーニャは恐る恐る齧り、一口齧った途端素早く残りを食い切った。私、まだ一口も付けてないのに……。
若干の呆れを混ぜた視線を送ると、リーニャはお腹を鳴らしながら私の手にある肉串に目を付けた。
「…………」
リーニャの口元に差し出してみると、肉串は一瞬にして消えてなくなった。
獣人の食欲は、どうやら底なしらしい。
何度か屋台で軽食を買いながら帰るうち、私はそのことに気が付いたのだった。
12/02 >スキル部分に「」もしくは『』を付けるよう変更。




