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1 転生

「ほら、どうだ?いい眺めだろ?ん?」


 屋上のフェンスの向こう側に立たされ、後ろから言葉を浴びせかけられているのが、俺だ。


「チッ、なんか言えよ、つまんねーな」


 後ろの男は、不機嫌そうに舌打ちをする。

 だが、他の男の声が上がり、急にテンションが上がる。


「ムカつくし、コイツ落とさね?」


「おっ、ありあり!ちゃんと受け身取れよな〜」


「ちょっ、待――」


 ドン。

 フェンス越しに背中を押される。

 空を飛ぶ感覚。

 近付く地面。

 グシャッ。

 痛みとともに、手足が不自然な方向に曲がっているのが分かった。


「――ア……」


 一瞬で意識は遠ざかり、視界は闇に包まれた。



「……なんだ、ここ?」


 真っ白な空間。

 起き上がった俺の目の前には、星型の器の様な物と、薄い板が置いてある。


『転生者歓迎』


「うわっ」


 ビューン、という振動音の様な音と共に、薄い板に文字が表示された。


『我神、汝求力?』


 エセ中国語みたいなのやめろよ。読みにくい。


『謝』


 おまけに心も読めるのか……。


『汝求力?』


 またもや同じ文字を表示させてくる。

 胡散臭い事この上ない。


『失礼、我神』


 神〜?

 新手の宗教勧誘ですか?


『否。汝記憶思出』


 平仮名を補完すると、「記憶を思い出せ」だろうか?

 ……あっ、そうだった。俺は屋上から落とされて死んだのだったか。

 急にあの時の記憶が思い出された。

 ならば、この状況は異世界転生というやつか?


『是。汝求力?』


 テンプレ的に、特別な力でもくれるのか。

 貰える物は貰っておこう。了承だ。


『喜。何力求?』


 どんな力を求める?という意味か?


『是。何力求?』


 うーん、どんな力か。

 取り敢えず、容姿で馬鹿にされたくはない。自分の見た目とかを好き放題弄れる力は欲しい。


『了。変幻自在』


 薄い板の横にあった星型の器に、黄金色の液体が注がれる。三割程注がれたところで、液体の流れは止まった。

 これが満タンになるまでは要求できるということか?


『是。何力求?』


 ふむ。

 じゃあ、人や物の情報が読み取れる力が欲しい。


『了。万能鑑定』


 またもや星型の器に液体が注がれ、今度は五割の位置で止まる。

 力によって液体の量は変わるのか。


『何力求?』


 先程までの感じならば、あと二つか。

 ならば、強力なアイテムを生成できる力が欲しい。聖剣とか、そういうの使ってみたいからね。


『了。万物創造』


 黄金色の液体が星型の器に注がれ――先程までより勢いが強い。あっという間に残りの五割が注がれてしまった。


 まじか……この後で身体強化みたいな力が欲しかった。


『謝。力過多』


 まあ確かに、なんでも作れる力は強力すぎるか。

 気を持ち直して、薄い板を見直す。


『力確認可。汝確認』


 力の確認をしろ?

 どうすればいいのだろう?

 試しに、目を瞑ってみる。


「おお」


 目を瞑っている筈なのに、ゲームの画面みたいなものが出てきた。

 とはいえ、それは簡素なものだ。自分の名前、レベル、ステータス、スキル、称号。そこもゲームみたいな感じだった。

 レベル制の異世界ということはわかった。


 そして、スキルの欄には先程要求した三つ以外も並んでいる。


●スキル

変幻自在(シェイプ・シフト)

万能鑑定(すべてをみとおす)

万物創造(クリエイト)

自己鑑定(ステータス)

能力取得(スキルリスト)


 万物鑑定だけ平仮名なのは何故?

 と思ったが、ツッコんだら負けな気がした。

 「自己鑑定(ステータス)」は恐らく今見えている物だろう。「能力取得(スキルリスト)」とはなんぞや?

 そう考えた時、画面――表現の仕方が分からないので、便宜上そう読んでおく――が切り替わった。


●スキルリスト

取得可能スキル、なし


 うーん、レベルが上がったら出てくるとか、そんな感じかな?

 取り敢えず言われた通りの事は出来たので、目を開いて板の文字を見る。


『長。我待』


 ごめんなさい。

 なんだか、不機嫌そうな顔が見えそうだ。


『注意。三力使用過多、汝害影響』


 三つの力の使い過ぎは良くないよ、って事?


『是』


 なるほど。ならば程々にしておこう。


『汝転生。幸運祈』


 なんだ、もう転生か。力だけ渡してポイはちょっと酷いと思う。


『時間無。汝消滅危険有』


 何それ怖い。

 長く居過ぎると消えるのか。怖いね。


『汝転生。別。』


 さようなら――。


 意識がまた遠のいていった。



「はぁ……はぁ……」


 体が揺れている感覚。

 目を開けると、美人な女性が走っていた。


 ……どういう状況?

 女性は俺が目を覚ましたのに気が付いた様だ。


「ごめんね、ごめんね……」


 謝られても。

 仕方がない、使い過ぎは良くないと言われたけど、早速スキルを使ってみよう。


(『万物鑑定(すべてをみとおす)』)


●リリー・メイエル 年齢23 レベル6 MP 23/23

○スキル

・礼儀作法

・社交辞令

○称号

『守護令嬢』

○情報

 母親。何者かに追い掛けられている様子だ。


 「すべてをみとおす」と言った割には、大した事が分からない。

 ただ兎も角、この体の母親がこの女性なのは分かった。


「はぁ……はぁ……ぐっ……」


 ヒュン。

 母親の背中に何かが突き刺さり、母親はその衝撃で倒れた。それでも、俺の事は放すまいと前方に突き出した。お陰で怪我はあまりない。

 顔を動かすと、母親の背中に矢が突き刺さっているのが分かった。血がボタボタ垂れている。


 ヒュン、ヒュン。

 続いて二本の矢が放たれ、母親の背中に突き刺さった。


「ごめ、んね……」


 母親は血を吐きながら謝り、そして力が抜けていく。

 死んでしまったのだ。


「おい、撃ち過ぎだろ」


「しょうがねえだろ、コイツが逃げるのが悪い」


 離れた所から男達の声が聞こえた。


「ん?ガキがいるな?」


「ほっとけ、どうせその内死ぬ。コイツが落としてる金だけ持ってこう」


 どうやら母親は逃走中に色々と物を落としていた様で、男達は屈んでそれを拾い始める。


 その隙を見せた事を後悔した方がいいだろう。何故なら俺は、怒っている。

 異世界でどんな事情があったのかは知らないが、この母親は前世の母親とは違う事だけは分かった。抱えられた時の手は、暖かく優しさが籠っていた。


(『変幻自在(シェイプ・シフト)』)


 15歳ぐらいのイケメンを意識して、スキルを使う。

 ぼふん、と一瞬煙の様なものが出て、次の瞬間、俺の体はイメージ通りの姿になっていた。おまけに、かっこいい服まで着ている。


「チッ、なんだぁ?――って、誰だコイツ!!」


「知らねえ、いいからやるぞ!!」


 煙が出た音で男達が振り返り、こちらに気付いた。

 コイツらが手練れだったら負けるが、最大限の抵抗はしてみせよう。


「『万物創造(クリエイト)』:聖剣エクスカリバー」


 ゲームで見た黄金の聖剣を意識する。

 本当に創れるのか少し不安だったが、イメージ通りの剣が手元に出現した。驚いた事に、先程まで無かった筈の柄が剣帯に差さっている。


「なんだコイツ!?魔法か!?」


 驚きの声を上げる男。

 エクスカリバーはちょっと重いが、前世で兄の持っていた木刀ぐらいの重さだ。本当はもっと重いのかもしれないが、何故かそれぐらいの重さしか感じなかった。


 驚く男に近寄り、エクスカリバーを一振り。


「ぎやぁっ!!」


 どうやら、この体の身体能力が前世よりも高いらしい。俺はさして敏捷な動きは出来なかった筈だが、それなりに速い踏み込みと一振りが出来た。

 エクスカリバーの切れ味は凄まじく、片方の男の右腕を斬り飛ばしてくれた。


「くそっ、やりやがったなテメェ!」


 斬られなかった方の男が叫びながら、弓を引く。

 いや、その距離で弓はおかしくない?

 男が弓を引き終わる前に近付き、首に向かってエクスカリバーを振るう。


「え――」


 スパン。

 男の首はくるくる回転しながら吹っ飛んでいく。


「グロい……」


 噴き出す血に吐きそうになるが、今はその前にやる事がある。

 振り向いて腕を押さえながら叫んでいる男の首も、同じ様にして斬り飛ばした。


「おえっ……」


 倒れる三人の死体の前で、吐いた。

 殺さなければ殺される状況だったとはいえ、この手で人を殺したのだ。


「うっ……」


 一分程経っただろうか。

 これ以上吐けない程吐いたところで、三人の死体から少し移動して腰を下ろす。


「はぁ……」


 半ば無意識に目を閉じた。

 すると、またもやステータス画面が出てくる。鬱陶しい。


「……ん?」


 表示されたステータス。

 何故か、俺のレベルが5まで上がっていた。


「……もしかして、殺人でもレベルが上がるのか?」


 恐ろしい事実に気が付いてしまった。

 ちなみに、スキルポイントが11手に入っていた。4レベルアップで11、法則性が分からない。

 スキルリストを開いてみると、何個かスキルが追加されていたが、取り敢えず無視して目を開ける。


「嫌だけど、漁るか……」


 ここがどこかも分からない以上、三人の死体を漁るしかない。

 血溜まりに嫌々ながら足を突っ込み、死体を漁る。


 母親の方には、金品と身分証しか残っていなかった。身分証は母親の分だけなので、金品だけ貰う。……母親の物だから、盗難にはならないと思いたい。

 二人組の男の方は、弓と剣、少量の金品と、バックパックみたいな鞄のみだった。


 うーん、まあ状況的に見て盗賊とそれから逃げる人、だよな……。


 少し躊躇ってから金品と鞄だけ拝借し、鞄に全ての金品を突っ込む。


「取り敢えず、人里を探すしかないか」


 このままではご飯もない。

 最悪スキルで創れるだろうが、乱用は危険だ。

 エクスカリバーを腰に差し、鞄を担いで歩き始めた。

11/16 >リリーの鑑定部分に称号について加筆。

11/17 >リリーの鑑定部分にMPについて加筆。

12/02 >スキル部分に「」もしくは『』を付けるよう変更。

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