1 転生
「ほら、どうだ?いい眺めだろ?ん?」
屋上のフェンスの向こう側に立たされ、後ろから言葉を浴びせかけられているのが、俺だ。
「チッ、なんか言えよ、つまんねーな」
後ろの男は、不機嫌そうに舌打ちをする。
だが、他の男の声が上がり、急にテンションが上がる。
「ムカつくし、コイツ落とさね?」
「おっ、ありあり!ちゃんと受け身取れよな〜」
「ちょっ、待――」
ドン。
フェンス越しに背中を押される。
空を飛ぶ感覚。
近付く地面。
グシャッ。
痛みとともに、手足が不自然な方向に曲がっているのが分かった。
「――ア……」
一瞬で意識は遠ざかり、視界は闇に包まれた。
◇
「……なんだ、ここ?」
真っ白な空間。
起き上がった俺の目の前には、星型の器の様な物と、薄い板が置いてある。
『転生者歓迎』
「うわっ」
ビューン、という振動音の様な音と共に、薄い板に文字が表示された。
『我神、汝求力?』
エセ中国語みたいなのやめろよ。読みにくい。
『謝』
おまけに心も読めるのか……。
『汝求力?』
またもや同じ文字を表示させてくる。
胡散臭い事この上ない。
『失礼、我神』
神〜?
新手の宗教勧誘ですか?
『否。汝記憶思出』
平仮名を補完すると、「記憶を思い出せ」だろうか?
……あっ、そうだった。俺は屋上から落とされて死んだのだったか。
急にあの時の記憶が思い出された。
ならば、この状況は異世界転生というやつか?
『是。汝求力?』
テンプレ的に、特別な力でもくれるのか。
貰える物は貰っておこう。了承だ。
『喜。何力求?』
どんな力を求める?という意味か?
『是。何力求?』
うーん、どんな力か。
取り敢えず、容姿で馬鹿にされたくはない。自分の見た目とかを好き放題弄れる力は欲しい。
『了。変幻自在』
薄い板の横にあった星型の器に、黄金色の液体が注がれる。三割程注がれたところで、液体の流れは止まった。
これが満タンになるまでは要求できるということか?
『是。何力求?』
ふむ。
じゃあ、人や物の情報が読み取れる力が欲しい。
『了。万能鑑定』
またもや星型の器に液体が注がれ、今度は五割の位置で止まる。
力によって液体の量は変わるのか。
『何力求?』
先程までの感じならば、あと二つか。
ならば、強力なアイテムを生成できる力が欲しい。聖剣とか、そういうの使ってみたいからね。
『了。万物創造』
黄金色の液体が星型の器に注がれ――先程までより勢いが強い。あっという間に残りの五割が注がれてしまった。
まじか……この後で身体強化みたいな力が欲しかった。
『謝。力過多』
まあ確かに、なんでも作れる力は強力すぎるか。
気を持ち直して、薄い板を見直す。
『力確認可。汝確認』
力の確認をしろ?
どうすればいいのだろう?
試しに、目を瞑ってみる。
「おお」
目を瞑っている筈なのに、ゲームの画面みたいなものが出てきた。
とはいえ、それは簡素なものだ。自分の名前、レベル、ステータス、スキル、称号。そこもゲームみたいな感じだった。
レベル制の異世界ということはわかった。
そして、スキルの欄には先程要求した三つ以外も並んでいる。
●スキル
○変幻自在
○万能鑑定
○万物創造
○自己鑑定
○能力取得
万物鑑定だけ平仮名なのは何故?
と思ったが、ツッコんだら負けな気がした。
「自己鑑定」は恐らく今見えている物だろう。「能力取得」とはなんぞや?
そう考えた時、画面――表現の仕方が分からないので、便宜上そう読んでおく――が切り替わった。
●スキルリスト
取得可能スキル、なし
うーん、レベルが上がったら出てくるとか、そんな感じかな?
取り敢えず言われた通りの事は出来たので、目を開いて板の文字を見る。
『長。我待』
ごめんなさい。
なんだか、不機嫌そうな顔が見えそうだ。
『注意。三力使用過多、汝害影響』
三つの力の使い過ぎは良くないよ、って事?
『是』
なるほど。ならば程々にしておこう。
『汝転生。幸運祈』
なんだ、もう転生か。力だけ渡してポイはちょっと酷いと思う。
『時間無。汝消滅危険有』
何それ怖い。
長く居過ぎると消えるのか。怖いね。
『汝転生。別。』
さようなら――。
意識がまた遠のいていった。
◇
「はぁ……はぁ……」
体が揺れている感覚。
目を開けると、美人な女性が走っていた。
……どういう状況?
女性は俺が目を覚ましたのに気が付いた様だ。
「ごめんね、ごめんね……」
謝られても。
仕方がない、使い過ぎは良くないと言われたけど、早速スキルを使ってみよう。
(『万物鑑定』)
●リリー・メイエル 年齢23 レベル6 MP 23/23
○スキル
・礼儀作法
・社交辞令
○称号
『守護令嬢』
○情報
母親。何者かに追い掛けられている様子だ。
「すべてをみとおす」と言った割には、大した事が分からない。
ただ兎も角、この体の母親がこの女性なのは分かった。
「はぁ……はぁ……ぐっ……」
ヒュン。
母親の背中に何かが突き刺さり、母親はその衝撃で倒れた。それでも、俺の事は放すまいと前方に突き出した。お陰で怪我はあまりない。
顔を動かすと、母親の背中に矢が突き刺さっているのが分かった。血がボタボタ垂れている。
ヒュン、ヒュン。
続いて二本の矢が放たれ、母親の背中に突き刺さった。
「ごめ、んね……」
母親は血を吐きながら謝り、そして力が抜けていく。
死んでしまったのだ。
「おい、撃ち過ぎだろ」
「しょうがねえだろ、コイツが逃げるのが悪い」
離れた所から男達の声が聞こえた。
「ん?ガキがいるな?」
「ほっとけ、どうせその内死ぬ。コイツが落としてる金だけ持ってこう」
どうやら母親は逃走中に色々と物を落としていた様で、男達は屈んでそれを拾い始める。
その隙を見せた事を後悔した方がいいだろう。何故なら俺は、怒っている。
異世界でどんな事情があったのかは知らないが、この母親は前世の母親とは違う事だけは分かった。抱えられた時の手は、暖かく優しさが籠っていた。
(『変幻自在』)
15歳ぐらいのイケメンを意識して、スキルを使う。
ぼふん、と一瞬煙の様なものが出て、次の瞬間、俺の体はイメージ通りの姿になっていた。おまけに、かっこいい服まで着ている。
「チッ、なんだぁ?――って、誰だコイツ!!」
「知らねえ、いいからやるぞ!!」
煙が出た音で男達が振り返り、こちらに気付いた。
コイツらが手練れだったら負けるが、最大限の抵抗はしてみせよう。
「『万物創造』:聖剣エクスカリバー」
ゲームで見た黄金の聖剣を意識する。
本当に創れるのか少し不安だったが、イメージ通りの剣が手元に出現した。驚いた事に、先程まで無かった筈の柄が剣帯に差さっている。
「なんだコイツ!?魔法か!?」
驚きの声を上げる男。
エクスカリバーはちょっと重いが、前世で兄の持っていた木刀ぐらいの重さだ。本当はもっと重いのかもしれないが、何故かそれぐらいの重さしか感じなかった。
驚く男に近寄り、エクスカリバーを一振り。
「ぎやぁっ!!」
どうやら、この体の身体能力が前世よりも高いらしい。俺はさして敏捷な動きは出来なかった筈だが、それなりに速い踏み込みと一振りが出来た。
エクスカリバーの切れ味は凄まじく、片方の男の右腕を斬り飛ばしてくれた。
「くそっ、やりやがったなテメェ!」
斬られなかった方の男が叫びながら、弓を引く。
いや、その距離で弓はおかしくない?
男が弓を引き終わる前に近付き、首に向かってエクスカリバーを振るう。
「え――」
スパン。
男の首はくるくる回転しながら吹っ飛んでいく。
「グロい……」
噴き出す血に吐きそうになるが、今はその前にやる事がある。
振り向いて腕を押さえながら叫んでいる男の首も、同じ様にして斬り飛ばした。
「おえっ……」
倒れる三人の死体の前で、吐いた。
殺さなければ殺される状況だったとはいえ、この手で人を殺したのだ。
「うっ……」
一分程経っただろうか。
これ以上吐けない程吐いたところで、三人の死体から少し移動して腰を下ろす。
「はぁ……」
半ば無意識に目を閉じた。
すると、またもやステータス画面が出てくる。鬱陶しい。
「……ん?」
表示されたステータス。
何故か、俺のレベルが5まで上がっていた。
「……もしかして、殺人でもレベルが上がるのか?」
恐ろしい事実に気が付いてしまった。
ちなみに、スキルポイントが11手に入っていた。4レベルアップで11、法則性が分からない。
スキルリストを開いてみると、何個かスキルが追加されていたが、取り敢えず無視して目を開ける。
「嫌だけど、漁るか……」
ここがどこかも分からない以上、三人の死体を漁るしかない。
血溜まりに嫌々ながら足を突っ込み、死体を漁る。
母親の方には、金品と身分証しか残っていなかった。身分証は母親の分だけなので、金品だけ貰う。……母親の物だから、盗難にはならないと思いたい。
二人組の男の方は、弓と剣、少量の金品と、バックパックみたいな鞄のみだった。
うーん、まあ状況的に見て盗賊とそれから逃げる人、だよな……。
少し躊躇ってから金品と鞄だけ拝借し、鞄に全ての金品を突っ込む。
「取り敢えず、人里を探すしかないか」
このままではご飯もない。
最悪スキルで創れるだろうが、乱用は危険だ。
エクスカリバーを腰に差し、鞄を担いで歩き始めた。
11/16 >リリーの鑑定部分に称号について加筆。
11/17 >リリーの鑑定部分にMPについて加筆。
12/02 >スキル部分に「」もしくは『』を付けるよう変更。




