それぞれの場所で
長兄のフリードリヒは、幹部候補生として新兵訓練を受けていた。下積みの兵たちから見れば、あっという間に出世して自分たちの上官となる「ひよっこ」の訓練を、複雑な思いでつけているのだろうと、彼は感じていた。だが、いずれ命がけで守ることになる幹部だからこそ、今は厳しく育てたいと思うのは当然のことだった。フリードリヒは、そんな兵たちの気持ちを慮れる士官になりたいと願いながら、日々の訓練に励んでいた。
一方、長女のクリスティーナは官僚として、土木や建設工事を管理・監督する仕事を続けていた。徐々に任せられる工事や事業の規模は大きく工期は長くなってきていた。魔法を使えば、工期を大幅に短縮できるだろうと思うことが多々あった。しかし、魔法という便利な道具に頼りすぎれば、本来必要な技術の進歩が遅れてしまうのではないかという複雑な思いも抱いていた。魔法には、魔法でなければならないという、特別な役割があるのだろうか。それが、クリスティーナの最近の悩みだった。
そんな折、魔法学園から「聖女」が現れたという情報が伝わってきた。学生の中で、ずば抜けた回復魔法の使い手が出たというのだ。もしかしてラウラではないか、とクリスティーナは一瞬胸を高鳴らせた。しかし、その聖女の名が「カミラ・シューマッハ」だと聞いて、彼女はがっかりすると同時に、少しだけ安堵した。妹の特別さは、今はまだ彼女だけのものとして、大切にしておきたかったのかもしれない。




