聖女の才能
回復魔法は、大きく分けて怪我を治す魔法と、毒を無効化する魔法に分類されていた。さらに、たった一人を治すのか、大勢を一度に治すのかによっても、その難易度は大きく異なった。古傷まで治せるのか、あるいは失われた身体の一部を元に戻せるのかによっても、魔法の難しさは変わってくる。
回復魔法において、抜群の才能を示したのが、カミラ・シューマッハという生徒だった。のちに「聖女」と呼ばれるようになった彼女の先祖は、聖職者だったそうだ。その血筋が、相性のいい回復魔法の才能を開花させたのだろうと皆は語った。
カミラの回復魔法によって指を失った者が、その指が再び生えてくる光景を、ラウラは生まれて初めて見た。ミヒャエル先生も、欠損部分の再生に成功した例を、これまで見たことがなかったと感嘆していた。しかし、カミラの魔力量はそれほど多くはない。だから、病院実習に行ったとしても、病院中の患者を一度に全快させるようなことはできなかった。せいぜい一部屋の患者を癒やすのが精一杯だったが、それでもそれは、とんでもない奇跡だった。
ラウラは、カミラのような術者がいれば、医者という職業はなくなってしまうのではないかと考えた。だからこそ、優れた使い手が少ないのだろう。ほとんどの魔法使いは、回復魔法を使うことができる。しかし、それはせいぜい、自分自身の軽症の怪我や病気、疲労を回復させる程度でしかなかった。カミラの才能は、まさに奇跡と呼ぶにふさわしかった。
回復魔法の授業は、カミラ以外は早めに切り上げられた。彼女だけは、あちこちの病院を回り、その驚くべき回復魔法の腕を磨くことになった。
回復魔法については凡庸な残った生徒たちは、生活魔法の実践に励んだ。部屋や体をきれいにする「クリーニング」の魔法、解錠・施錠の魔法、服の汚れを落とす魔法、そして音を消したり、自分の姿を隠したりする魔法など、その種類は多岐にわたった。
これらの魔法は、市井の魔法使いたちが、日々の暮らしの中で必要に応じて開発したものだという。だからこそ、魔法使いであれば、誰でも新しく作り出すことが可能だと、ミヒャエル先生は教えてくれた。ラウラは、日々の生活を少しでも楽にしようと、人々の知恵と願いが込められた魔法の数々に、静かに心を惹かれていった。




