聖女の秘策
カミラもまた、静かに、そして率直に、ラウラに教会の周辺で起きていることを話してくれた。
「軍が秘密裏に、回復魔法を使える衛生兵を養成しているという噂が、広がり始めているわ」
彼女の声には、張り詰めた緊張感が含まれていた。 「そして、シューマッハ家が、それに何らかの形で支援しているのではないか、とも囁かれているの」
そうした噂の広がりから、軍と教会との間に横たわる対立が、再び強まっていることがカミラから伝えられた。ラウラは、そこで合点がいった。
「それで、教会で会うのを避けたのね」 「そうなのよ」カミラは、友人を守るための行動であったことを認めた。
ラウラは、この緊迫した状況の中で、最も重要な倫理的な課題を口にした。 「回復魔法の禁忌についても、絶対に教える内容だけれども、どう伝えるのが、彼らにとって一番良いのか迷っているの」
カミラは、しばらく窓の外の木立を眺めていたが、やがて、一つの驚くべき提案をラウラに投げかけた。 「回復魔法士を、ある種の聖女であると規定するの」
ラウラは、目を丸くした。 「でも、私が養成するのは、全員男ばかりよ」 「私が知る限りでは、聖女の定義に性別はないわ」カミラは静かに言った。「それは、教会が定めた慣習に過ぎない」 「そうなの……」
「聖女には、いろいろと縛りはあるけれど、回復魔法士に、その中でも最も重要な一つの縛りをかけるのよ。『敵味方を問わず、命を助けなければならない』という縛りを」
カミラの言葉は、ラウラの心に深く響いた。 「戦場では、混乱することがあったり、敵陣に進攻することもあるでしょう。そうした時でも、彼ら回復魔法士は、敵味方とも命を救うように、あなたが教育するの」
それは、軍の論理と真っ向から対立する、崇高な理念だった。
「軍が、受け入れるかしら……」ラウラは、その現実的な困難を口にした。
カミラは、優しく、しかし確固たる意志を込めて、ラウラを見つめた。 「受け入れられなければ、ラウラ、あなたの辞め時なのかもしれないわ」
その言葉は、ラウラの心を強く打った。彼女の才能は、軍の道具となるかもしれない。だが、その才能の行使を、自らの倫理と矛盾させてまで続ける必要はないのだ。カミラは、軍への奉仕の道を選んだラウラに、最後に残された、撤退の権利を教えてくれた。




