表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/82

聖女の秘策

 カミラもまた、静かに、そして率直に、ラウラに教会の周辺で起きていることを話してくれた。


「軍が秘密裏に、回復魔法を使える衛生兵を養成しているという噂が、広がり始めているわ」


 彼女の声には、張り詰めた緊張感が含まれていた。 「そして、シューマッハ家が、それに何らかの形で支援しているのではないか、とも囁かれているの」


 そうした噂の広がりから、軍と教会との間に横たわる対立が、再び強まっていることがカミラから伝えられた。ラウラは、そこで合点がいった。


「それで、教会で会うのを避けたのね」 「そうなのよ」カミラは、友人を守るための行動であったことを認めた。


 ラウラは、この緊迫した状況の中で、最も重要な倫理的な課題を口にした。 「回復魔法の禁忌についても、絶対に教える内容だけれども、どう伝えるのが、彼らにとって一番良いのか迷っているの」


 カミラは、しばらく窓の外の木立を眺めていたが、やがて、一つの驚くべき提案をラウラに投げかけた。 「回復魔法士を、ある種の聖女であると規定するの」


 ラウラは、目を丸くした。 「でも、私が養成するのは、全員男ばかりよ」 「私が知る限りでは、聖女の定義に性別はないわ」カミラは静かに言った。「それは、教会が定めた慣習に過ぎない」 「そうなの……」


「聖女には、いろいろと縛りはあるけれど、回復魔法士に、その中でも最も重要な一つの縛りをかけるのよ。『敵味方を問わず、命を助けなければならない』という縛りを」


 カミラの言葉は、ラウラの心に深く響いた。 「戦場では、混乱することがあったり、敵陣に進攻することもあるでしょう。そうした時でも、彼ら回復魔法士は、敵味方とも命を救うように、あなたが教育するの」


 それは、軍の論理と真っ向から対立する、崇高な理念だった。


「軍が、受け入れるかしら……」ラウラは、その現実的な困難を口にした。


 カミラは、優しく、しかし確固たる意志を込めて、ラウラを見つめた。 「受け入れられなければ、ラウラ、あなたの辞め時なのかもしれないわ」


 その言葉は、ラウラの心を強く打った。彼女の才能は、軍の道具となるかもしれない。だが、その才能の行使を、自らの倫理と矛盾させてまで続ける必要はないのだ。カミラは、軍への奉仕の道を選んだラウラに、最後に残された、撤退の権利を教えてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ