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魔力量の計測

 数日後、陸軍病院の準備室に、シューマッハ家からの重々しい封蝋がされた書簡が届いた。ラウラは緊張しながらそれを開いた。


 書簡には、当主カール・シューマッハの静かな了承が記されていた。魔道具は貸し出すが、長年の時を経ているため、動作の保証はできないこと。そして、その貸し出しの代わりに、回復魔法学校について、軍規に触れない範囲で構わないから、随時その内容を教えて欲しいということだった。


 最後の文には、この要求が、代々聖女を輩出しているシューマッハ家の純粋な学術的な興味によるものであると、わざわざ記されていた。


 ラウラは、この複雑な書簡を、すぐにシュミット医師に見せた。 「どうしましょう?」


 シュミット医師は、その内容を一読すると、わずかに笑みを浮かべた。彼の目には、貴族の駆け引きが見透かされていた。 「『軍規に触れない範囲でいい』というのだから、条件を呑めばいいんじゃないか。要求がエスカレートするようなら、その時に私に教えてくれ」 彼は、その条件を、取るに足らないものとして処理した。


 ラウラは、早速、シューマッハ家宛に返信の手紙をしたためた。条件を受け入れることと、魔道具を借り受けられる具体的な日付を教えて欲しい旨を、丁寧に記した。


 そのやり取りが終わった後、シュミット医師は、ラウラに軍との交渉の進捗を語った。 「君の提案通り、回復魔法学校の生徒は、軍内部から魔力測定結果を基に選抜をしたい旨を話したら、軍以外の人間が入ってこないことが、非常に歓迎されたよ」


 その報告を聞き、ラウラは、改めて確信した。 (本当に、表立って回復魔法士を養成していることを宣伝したくないのだな……)


 軍は、再生魔法の力を独占し、その存在を、人々の目から隠そうとしている。ラウラの学校は、巨大な軍の闇の中で、静かに、しかし強力な「奇跡」の力を生み出す、秘密の苗床となろうとしていた。彼女が魔道具の力を借りて選抜するであろう、最初の十数名の生徒たち。彼らは、静かな使命を背負い、やがて、軍の知られざる場所に送り出されていくことになるのだろう。


 数日後、陸軍病院の準備室に、シューマッハ家から件の魔道具が、厳重に梱包されて送り届けられた。取りに行く手間が省けて助かったとラウラが安堵したのも束の間、魔道具が届いたその日に、カミラがひょっこりと準備室を訪ねてきた。


「使い方を教えるわ」


 カミラは、そう言って、優雅な仕草で魔道具の包みを解き始めた。それは、磨き込まれた黒曜石のような台座の上に、細い水晶の針が立つ、古風だが精巧な装置だった。


「でも、今はまだ、検査の対象者がいないから」 ラウラが言うと、カミラは微笑んだ。 「大丈夫よ。ラウラ、あなたが仮の対象者になって。あなたの魔力を測定してあげる」


 興味津々で、ラウラはカミラに言われるがまま、台座の上に手をかざした。すると、水晶の針は、一瞬の静寂の後、目盛りの一番上、まばゆい光を放つ場所を指した。


 その結果は、「金」だという。 カミラは、その階級について説明してくれた。魔力量の多さを示す階級は、上から順に「金」「銀」「銅」「鉄」「鉛」と分かれている。


「回復魔法を使うには、『銀』以上が望ましいとされているわ。私は、実は『銅』クラスなの。だから、すぐに魔力切れになる」


 カミラは、聖女としての能力が、天賦の魔力よりも、むしろその繊細な技術と、家系が受け継いできた秘術に依ることを、静かに明かした。


「そして、『鉄』や『鉛』クラスは、自分が魔力持ちだとは、思っていない人がほとんどだろうね」


 その言葉は、軍が探している「潜在的な魔力持ち」の姿を具体的に示していた。彼らは、その力を意識することなく、ただの日常を生きているのだ。


「とりあえず、魔道具は壊れていないわね」 カミラは、満足そうに頷くと、使命を果たしたかのように、準備室を後にした。


 ラウラは、自分の両手を見つめた。「金」の魔力。それは、彼女の再生魔法が、なぜ奇跡と呼ばれたのかを証明する、一つの証だった。その圧倒的な才能と、シューマッハ家の古い知恵が、今、軍という巨大な力の道具となり、新しい「奇跡」を生み出そうとしていた。


 ラウラとシュミット医師は、ハインリッヒ少佐を通じて、回復魔法学校への入学志願者を募って欲しい旨を参謀本部へ上申した。そして、その返答は、予想よりも早く、そして力強く現れた。


 一か月後、陸軍病院の広場に、五十人の下士官と兵が、制服の皺一つなく整列してやって来た。彼らは、軍内部に潜む「魔力持ち」の可能性を秘めた者たちだった。


 まず、シュミット医師が丹念に作り上げた学力試験が課された。医学の基礎知識、論理的な思考力。ここで、すでに多くの志願者が篩にかけられた。


 次に、ラウラがシューマッハ家から借り受けた魔力測定機に、彼らは一人ずつ手をかざした。「金」「銀」という奇跡に近い才能を持つ者は現れなかったが、それでも、水晶の針は、「銅」以上の、回復魔法を学ぶに足る魔力を示す者を選び出した。


 最初の試験で残ったのは、主に医療関係者で、わずか五人だった。


 定員には、まだ遥かに足りない。軍は、即座に次の募集をかけた。今度は、百人の応募があり、再度の試験と魔力測定を経て、さらに十人が選ばれた。


 こうして、回復魔法士学校の一期生は、定員の十五名に達した。


 彼らは、所属していた部隊も、年齢も、位階も、実にまちまちだった。軍の様々な部署から集められた、その十五名が、これから一年間、ラウラの指導の下で、命を生かすための「奇跡」に取り組むことになる。


 この十五名は、半年後に、各所属から魔法学校――正確には、陸軍病院付属の回復魔法士学校――への転属が言い渡されることになっていた。そして、その日から、授業が始まる。


 この事実は、ラウラとシュミット医師に、明確な期限を突きつけた。 半年以内に、すべての準備を整え、開学しなければならない。


 ラウラは、目の前に積まれた図面と、これから始まる養成という重い使命に、胸の奥で静かに火を灯した。彼女の新しい闘いは、もう、迷いの時を許さなかった。


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