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入学試験

 準備室に戻ると、ラウラはすぐに今日の成果をシュミット医師に報告した。彼女の頭の中には、ミヒャエル先生との対話によって、すでに学校の輪郭ができ始めていた。


「シュミット先生、魔法学校の卒業生の進学先の一つとして、この学校を開学したいと思います」


 ラウラは、簡潔に、しかし明確に続けた。 「定員は十数名と伺いましたので、ミヒャエル先生に打診をしたのですが、魔法学校の卒業生だけでは、その定員を埋められそうもない、というお返事でした」


 彼女は、古びた病棟の図面の上に、新たな構想を広げるように言った。 「従って、魔法学校以外からも入学者を募る必要があります。その選抜には、まず魔力試験を課したいと思います」


 シュミット医師は、そこまで黙って、ラウラの話を聞いていた。他的冷徹な眼差しは、ラウラの熱意と、その計画の隙間を探っているかのようだった。


「入学試験に、学科試験は無いのかい?」 彼の問いは、ラウラの計画の、最も素朴な部分を突いた。


「入学した後で教えればいいかと、思いまして」 ラウラは、純粋に魔法の才能を優先した。しかし、シュミット医師は、現実の世界の厳しさを知っている。


「世の中には、君の想像を絶する人がいる」 シュミット医師は、深く、静かに言った。彼の言葉には、過去の経験から得られた、苦い教訓が滲んでいた。 「そういう人を、事前にふるいにかけておいた方が、後で教員が救われると思う。どうせなら、試験問題は私が作ってもいい」


 その提案は、ラウラにとって予想外のものだった。シュミット医師の持つ、医学と論理の知識は、彼女の魔法の才能とは別の、強固な土台となるだろう。ラウラの純粋な情熱と、シュミット医師の現実主義。この二つの力が合わさることで、回復魔法士学校の礎は、より強固なものになろうとしていた。


 シュミット医師は、ラウラの純粋な熱意に、現実という名の冷たい水を注ぐかのように、学科試験の必要性を説き始めた。


「ラウラ君、君は回復魔法のために解剖学が重要だという説を、報文に書いている。君は、本を読み、聖女の回復魔法を見て、まるで水を吸い込むように知識を身につけたのかもしれない」


 彼の口調は、厳しかったが、そこには、教育者としての、生徒への責任感が滲んでいた。


「だが、世間一般の人は違う。解剖学の教科書は、かなり難しいし、覚えることは膨大だ。内臓の修復まで回復魔法でやろうと思うと、さらに組織学の知識を要する。外科と共同作業をするとなれば、手術管理の知識もいる」


 シュミット医師は、机を軽く叩いた。 「君は、苦労せずに身に着いたのかもしれない。だが、そういう人は稀有なんだ。入学してくる者たちに、君と同じ水準を最初から求めるのは酷だ」


 彼は、ラウラの持つ、天才ゆえの隔絶を指摘した。 「君が住む世界と、世の中の人が住んでいる世界は、違う。この言い方で、分かるかな?」


 ラウラの目の前には、彼女が当たり前のように通過した、知識の習得という長い道のりが、普通の人々にとっては、いかに険しい山道であるかという現実が、図面のように広がった。


「だからこそ、基礎学力のテストは、入学前に必要なんだ。学力と魔力の二重の篩にかけることで、初めて質の高い養成ができる」


 シュミット医師は、そこで一呼吸置いた。 「魔法学校の卒業生を受け入れるという君の考えは、私も賛成だ。魔力の試験を課すことも賛成する」 彼は、言うべきことは全て言い尽くした、というように、そこで静かに沈黙してしまった。


 ラウラは、その沈黙の中で、深く考えた。自分の才能を基準にして、人を見誤ってはいけない。彼女は、シュミット医師の言葉の奥に潜む、この国の医学の積み重ねと、教育というものに対する、真摯な姿勢を感じていた。二人の間には、知識の根源に対する考え方の違いがあったが、その目指すところは、優秀な回復魔法士を育てるという、一点で一致していたのだ。


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