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校長と教頭

 院長室の内ドアが、突然、音もなく開け放たれた。ハインリッヒ院長は、その予期せぬ闖入に、一瞬、椅子の上でびくりと肩を震わせた。驚きが、彼の顔にありありと浮かんだ。


 遅れて、準備室の方からシュミット医師が飛んできた。彼の顔は、珍しく怒りで硬くなっていた。 「ラウラ君! ドアを開ける時にノックするのは、軍の規律とか言う以前に、マナーの問題だ! ワーグナー家では、そんなことも子供に教えないのか!」


 シュミット医師は、公の場で、感情を露わにして、ラウラを厳しく叱責した。 しかし、当のハインリッヒ院長は、すぐに冷静を取り戻した。彼は、静かにシュミット医師を制した。


「シュミット君、そこまで言わなくても。だが、ラウラ君、私も驚くから、ノックはしてくれるかな」 院長は、穏やかな口調で注意したが、その言葉には、上官としての確かな重みがあった。


 ラウラは、ひどく恐縮し、頭を下げた。自分の不用意な行動が、規律を重んじる軍の人間にとって、いかに無礼であったかを痛感した。 「ごめんなさい。久しぶりの陸軍病院で、少し興奮していたみたいです。申し訳ありませんでした」


 彼女の素直な謝罪に、院長は小さく頷いた。 「それで、何の用だったんだい」 ハインリッヒ院長は、改めてラウラに尋ねた。


 ラウラは、背筋を伸ばし、一等軍曹としての任務を果たすべく、元気に挨拶した。 「ラウラ一等軍曹、本日付で、回復魔法士学校準備室に着任いたしました!」


 院長先生は、柔らかな表情を浮かべた。 「了解したよ、ラウラ君。開校の暁には、私が校長を兼務し、シュミット医師が教頭になる予定だ。開校準備は、二人で仲良く進めて欲しい」


 ラウラは、力強く「分かりました」と返事をした。


 しかし、その直後、彼女の心に、小さな疑問が湧き上がった。 (何で、『仲良く』なんて、子供に言うようなことを言ったのだろう……)


 院長の言葉は、まるで、シュミット医師とラウラ、この二人の間に、目に見えない、しかし深刻な摩擦が生じることを、あらかじめ知っているかのようだった。


 ラウラは、自分の純粋な探求心とは遠いところで、すでに、軍という巨大な組織の人事と、複雑な人間関係の渦中に投げ込まれてしまったことを、漠然と悟った。彼女の新しい闘いは、技術的な問題だけでなく、人の心と心の間に横たわる、見えない溝を埋めることから、始まるのかもしれない。


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