サクランボのケーキ
二人は司令部を離れ、近くの古風なカフェに入った。案内された窓際の席からは、先ほどまでラウラが恐怖を感じていた陸軍司令部の威容と、その前で静かに佇むトール大公の騎馬像が見えた。像の周りでは、休日を楽しむ親子連れが、のどかに散策している。その対比が、ラウラの心をわずかに落ち着かせた。
ミヒャエル先生が、優しい眼差しで言った。 「ラウラ、君の労を労わないとね。何でも好きなものを頼みなさい」
ラウラは、この緊迫した状況を乗り越えた自分へのささやかな褒美として、遠慮なく、甘酸っぱいサクランボのケーキ、シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテを選んだ。彼女が紅茶とケーキを注文し、二人がしばしその到着を待つ間、ミヒャエル先生は改めて口を開いた。
「ラウラ、君は本当に成長したね。あんなに偉い軍人たちを前にして、臆することなく、自分の意見を、それも、彼らが聞きたくなかったであろう禁忌の理由まで、はっきりと述べていた。大したものだよ」
その心からの賞賛に、ラウラの頬がわずかに上気した。彼女は、論文の核心について話そうと、つい口を開きかけた。 「でも、再生魔法が……」
先生は、すぐに、優しく、しかし明確に話を止めた。 「ここは、一般の人もいる。具体的な話は、学校へ戻ってからにしよう」
ラウラには、その理由が完全には分からなかったが、軍事的な話や、国家機密につながる可能性のある再生魔法の詳細は、むやみに話すべきではないのだと悟った。静かに、その指示を受け入れた。
「もっと恐ろしい、厳格な感じなのかと思ったんですけど」ラウラは、少しだけ緊張が解けた口調で言った。「私に合わせてか、皆さん優しい口調だったので助かりました。フリードリヒ兄さんの方がよっぽど乱暴な言葉遣いです」
その言葉に、ミヒャエル先生は心から笑い、その大きな手が、テーブルの上で優しく紅茶のカップに触れた。
ケーキが運ばれてきた。ラウラは、ピースに切られた甘いキルシュトルテを口に運びながら、ぼんやりと窓の外の風景を眺めた。
この後、自分の人生がどうなるのか。陸軍の視線から逃れられるのか、それとも、さらに深く関わらざるを得なくなるのか。自分の知らないところで、兄や姉、そして軍の上層部が、様々な動きをしているのだろう。
しかし、このサクランボの甘さを感じながら、ラウラは思い悩むのをやめることにした。自分の知恵と、信じる道、そして周りの人々の愛があれば、進むべき道は必ず開ける。今は、この目の前の、甘く清々しいケーキと、平穏なひとときを味わうだけで十分だと思った。彼女の人生の物語は、大きな力を伴いながら、それでも、彼女自身の意志によって紡がれていくのだ。




