表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/82

サクランボのケーキ

 二人は司令部を離れ、近くの古風なカフェに入った。案内された窓際の席からは、先ほどまでラウラが恐怖を感じていた陸軍司令部の威容と、その前で静かに佇むトール大公の騎馬像が見えた。像の周りでは、休日を楽しむ親子連れが、のどかに散策している。その対比が、ラウラの心をわずかに落ち着かせた。


 ミヒャエル先生が、優しい眼差しで言った。 「ラウラ、君の労を労わないとね。何でも好きなものを頼みなさい」


 ラウラは、この緊迫した状況を乗り越えた自分へのささやかな褒美として、遠慮なく、甘酸っぱいサクランボのケーキ、シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテを選んだ。彼女が紅茶とケーキを注文し、二人がしばしその到着を待つ間、ミヒャエル先生は改めて口を開いた。


「ラウラ、君は本当に成長したね。あんなに偉い軍人たちを前にして、臆することなく、自分の意見を、それも、彼らが聞きたくなかったであろう禁忌の理由まで、はっきりと述べていた。大したものだよ」


 その心からの賞賛に、ラウラの頬がわずかに上気した。彼女は、論文の核心について話そうと、つい口を開きかけた。 「でも、再生魔法が……」


 先生は、すぐに、優しく、しかし明確に話を止めた。 「ここは、一般の人もいる。具体的な話は、学校へ戻ってからにしよう」


 ラウラには、その理由が完全には分からなかったが、軍事的な話や、国家機密につながる可能性のある再生魔法の詳細は、むやみに話すべきではないのだと悟った。静かに、その指示を受け入れた。


「もっと恐ろしい、厳格な感じなのかと思ったんですけど」ラウラは、少しだけ緊張が解けた口調で言った。「私に合わせてか、皆さん優しい口調だったので助かりました。フリードリヒ兄さんの方がよっぽど乱暴な言葉遣いです」


 その言葉に、ミヒャエル先生は心から笑い、その大きな手が、テーブルの上で優しく紅茶のカップに触れた。


 ケーキが運ばれてきた。ラウラは、ピースに切られた甘いキルシュトルテを口に運びながら、ぼんやりと窓の外の風景を眺めた。


 この後、自分の人生がどうなるのか。陸軍の視線から逃れられるのか、それとも、さらに深く関わらざるを得なくなるのか。自分の知らないところで、兄や姉、そして軍の上層部が、様々な動きをしているのだろう。


 しかし、このサクランボの甘さを感じながら、ラウラは思い悩むのをやめることにした。自分の知恵と、信じる道、そして周りの人々の愛があれば、進むべき道は必ず開ける。今は、この目の前の、甘く清々しいケーキと、平穏なひとときを味わうだけで十分だと思った。彼女の人生の物語は、大きな力を伴いながら、それでも、彼女自身の意志によって紡がれていくのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ