喚問
その朝、ラウラとミヒャエル先生が待ち合わせをしたのは、陸軍司令部の門前、救国の英雄トール大公の騎馬像が威厳をもって立つ広場だった。大公は、青銅の馬上で、遥かな戦場を見据えるような、揺るぎない眼差しを向けている。
召喚状に記された時刻の三十分ほど前には、二人ともすでに到着していた。ラウラは、この巨大な司令部の建物を前にして、胸の奥で微かな震えを感じていた。
二人は、騎馬像の台座の下にある、硬い石のベンチに腰を下ろした。
「ラウラ嬢、緊張しているか?」
ミヒャエル先生の声は、いつもの明るさの中にも、どこか張り詰めたものがあった。
「はい、緊張しています。ミヒャエル先生はいかがですか」
ラウラは、正直に答えた。軍という、魔法とはまた違う、強大な力の集合体を前に、彼女は自分自身の小ささを感じていた。
「僕も柄にもなく緊張しているよ」ミヒャエル先生は苦笑した。「軍に呼ばれるなんてことは、めったにないからね」
そうして、二人がベンチで静かに時を待つうち、定刻となった。二人は立ち上がり、司令部の、城壁のように大きなビルの中へと足を踏み入れた。
受付は、広々とした、無駄のない空間だった。制服を完璧に着こなした女性兵士が、無表情にカウンターの向こうに立っている。
ミヒャエル先生が、一歩前に出て、澄んだ声で告げた。
「呼び出しに応じて、魔法学校教師ミヒャエル・ケスラーと、二等軍曹ラウラ・ワーグナー、出頭しました」
女性兵士は、ぴんと背筋を伸ばしたまま、穏やかな声で応じた。
「伺っております。案内の者が参りますので、そちらにお掛けになってお待ちください」
彼女は、受付前の壁際に並べられた、控えめなソファーを指で示した。
ソファーで二人が緊張した面持ちで待っていると、間もなくして、軍服姿の若い男が、にこやかに笑みを浮かべながら近づいてきた。
「カール・ホフマン少尉です。お迎えに上がりました。私についてきてください」
ホフマン少尉は、二人の緊張を解こうとするかのように、明るい口調で話しかけながら、上の階へと案内を始めた。
「今日の呼び出しの理由ですが、この間、ラウラさんが書かれた、魔法学校紀要に投稿された研究についてです。上の者が大変興味を持ちまして、ぜひ直接、著者の話を伺いたいというものですから、お忙しいとは思ったのですが、来ていただくことになりました」
彼は、召喚の理由を、簡潔に、そして穏やかに説明してくれた。再生魔法の報文が、やはり軍の目を引いたのだと、ラウラは改めて理解した。
ホフマン少尉は、廊下の突き当りにある、重厚な木のドアの前で立ち止まった。
「こちらの部屋で、皆さんお待ちです」
ドアは、普通の事務室のものではなく、大きな会議室の入口だった。ラウラは、深呼吸をして、ミヒャエル先生と顔を見合わせた。彼女の報文が、今、この国の運命を握る人々を前にして、静かに、その真価を問われようとしていた。




