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捜査会議

 その日、ワーグナー家の捜査会議に、フリードリヒがもたらした情報は、この長く暗い物語に、ようやく一つの区切りをつけるものだった。重苦しい空気が漂う部屋で、フリードリヒは慎重に、しかし明確に、口を開いた。


「海外で逮捕拘留されていた闇魔法使い、セルゲイ・ペトロフから、供述が得られた」


 その瞬間、部屋の誰もが、静かに息を詰めた。


「セルゲイは、自分がトーマスとマリアに施した呪いが破られたことで、事態の発覚を恐れて海外に逃亡したらしい」 フリードリヒは、目を合わせるようにして、ゆっくりと続けた。


「行方不明になっている建設会社の専務が、セルゲイに呪いを掛けるように依頼し、依頼通りにトーマスとマリアに呪いを掛けた。……専務の消息は相変わらず不明だが、生きている可能性は低いだろう、というのが大方の見方のようだ」


 クリスティーナは、顔に戸惑いを浮かべた。 「セルゲイの身柄の引き渡しとか、あるのかしら?」


「それは無理だと思う」フリードリヒは首を振った。「そもそも、闇魔法使いという概念が、セルゲイが捕まっている北の国では存在しない。海外で犯した犯罪についても、裁く法律がないらしい。今回の事情聴取も、先方の好意によるものだそうで、釈放されるのも時間の問題だ」


「何か、釈然としないわね」 クリスティーナは、納得がいかない様子で呟いた。


「法律だからね」 父のハンスが、そっとクリスティーナをなだめる。現実の法の世界は、物語のようにすっきりとはいかないものだ。


 ラウラは、マリアの呪いを解除し教会への連れ出しや研究所で匿っている日々の事を思い起こしながら尋ねた。 「セルゲイは、トーマスとマリアの殺害までは依頼されていないのね?」


「呪いだけで任務完了したそうだ」と、フリードリヒは答えた。それは、闇魔法使いの世界でも、依頼の範囲というものが存在することを示していた。


 ラウラは、その答えに深く頷き、ふっと安堵の息を吐いた。 「これで、やっとトーマスとマリアは、枕を高くして眠れるね」


 呪いの根源が特定され、その意図が明らかになった。事件の真相は、複雑な人の思惑と、古くからの魔法の力が絡み合って生まれたものだったが、ともかく、親子二人の頭上から、恐ろしい陰は去ったのだ。彼らの長い闘いは、ようやく終わりを告げた。だが、トーマスとマリアの人生の物語は、これから静かに、新たな頁を開こうとしている。


 トーマスの呪いが解け、事件の背景が明らかになった後。シュテファンが、いつものように底抜けに明るい声で話し始めた。 「そのトーマスの件だけどね」


 その言葉に、ラウラはそっと耳を傾けた。


「親方のところへ来て面接を受けた結果、大いに気に入られて、めでたく採用となったよ。今は、俺の後輩、っていうか、弟弟子と言ったところかな」


 シュテファンの顔には、心からの喜びが浮かんでいた。トーマスの過酷な生い立ちと、それに耐え抜いた彼の強さを、親方は見抜いたのだ。


「あいつ、魔法が使えるでしょう。それが金属を扱うときにさ、火力の調整とかが、来たばっかりの若造のくせに玄人並みでさ。嫌になっちゃうよ、俺たちの立場がない」


 シュテファンは、半分冗談めかして言ったが、その声には、優秀な仲間の登場を喜ぶ、清々しい感情が込められていた。


 ラウラは、それを聞いて、深く感じ入った。トーマスが、かつて自分を守るために磨いた攻撃魔法を、今はその性質を火魔法へと変え、金属加工という、人々の生活を支える確かな仕事で腕を振るっている。これも、親方の慧眼あればこそだ。力を、人を傷つけるためではなく、何かを生み出すために使う。その変化こそが、トーマスが呪いから解き放たれ、新しい人生を歩み始めた何よりの証だった。


「今は、工房の近くに小さな家を借りて、お母さんと一緒に暮らしているそうだよ」


 シュテファンの言葉に、ラウラは胸が温かくなった。あの、壊れかけた家で暮らしていた親子が、再び静かな日常を取り戻している。


「今度、遊びに来てくれと誘われているんだ。それから、ラウラとカミラにも、ぜひ会いたいって言っていたよ。きちんと会って、お礼を言いたいって」


 シュテファンは、そこでふと笑い、ラウラの方を見た。 「だから俺、『カミラはともかく、ラウラは、お礼なんて言うと絶対に家に来ないぞ』って言っておいたんだ」


 ラウラは、顔が少し熱くなるのを感じた。彼女がトーマスたちにしたことは、ただ、自分の信じる道を進んだ結果に過ぎない。お礼を言われるような大それたことをしたつもりは毛頭なかった。


「ふふ、よく分かっているわね、シュテファン兄さん」


 ラウラは、微笑んだ。トーマスが、心からの感謝を込めて、その新しい工房で、自分たちの作った金属の道具を見せてくれる日が来る。その時、彼女はきっと、彼の新しい生活の、確かな光を感じることだろう。物語は、悲劇から遠ざかり、静かな喜びの方向へと、ゆっくりと舵を切っているのだと。


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