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再生魔法の闇

 先端医学研究所でのプロジェクトは、主要な論文が受理され、ようやく一段落を迎えていた。ラウラは束の間の静けさの中で、安堵しつつも、心の一角に張り付いたまま離れない、一つの疑問について考え続けていた。

 それは、シューマッハ家の古い蔵書に記されていた、強い戒めの言葉。

「他の重傷者のいる部屋での魔法による再生はしてはならない」

 今よりも遥かに魔法が隆盛を極めていた時代に、わざわざ書き残された資料は、それ自体が貴重な情報の宝庫である。その中でも、これほどまでに強い表現で注意を促されているのは、一体なぜなのだろうか。

 ラウラは、自らが研鑽を積んできた再生魔法について、改めて思考を巡らせる。魔法を発動し、傷ついた肉体を時を巻き戻すかのように再構築する。その時に消費されるものは、患者自身の肉体的な資源と、術者の魔力。それ以外にも、何か、目に見えない、本質的な代償があるのではないか。

「重傷者がいる部屋での魔法の発動が禁じられている」

 それはすなわち、その「重傷者」から、再生に必要な何かを、意図せず「提供」を受けてしまうからではないか。そして、その提供が、ただでさえ生命の瀬戸際にある重傷者にとって、致命的な結果をもたらすのではないか――。

 問いは、水底の藻のように、ラウラの胸の奥に絡みついて離れない。

 ある日、ラウラは、信頼を置く同僚であり、時に姉のように厳しくも優しい眼差しを向けるカミラに、思い切って尋ねてみた。

「カミラ。再生魔法は、なぜ重傷者がいる部屋で実行してはいけないのかしら。シューマッハ家には、その理由は伝わっている?」

 カミラは、微かに目を細め、ラウラの真剣な視線を受け止めた。

「さあ、私には直接伝わってはいないわ。けれど、そんな大事なことが記されているのなら、先達たちは必ず、その理由に関する資料も残しているはずよ」

 カミラは、肘をついた机の上で頬杖をつきながら、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「自分で調べてみたら? 本なら、シューマッハ家の書庫から持ってきてあげるし。それとも、今度の休みに一緒に書庫で本を漁ってみる? あの書庫は、迷宮みたいで一人だと心細いもの」

「シューマッハ家の書庫」――その言葉が、ラウラの好奇心をくすぐった。代々魔法の研究と歴史を深く守り続けてきた名家の蔵書には、きっと、まだ世界に知られていない、秘密のことわりが眠っているに違いない。ラウラは、自分の胸の鼓動がわずかに速くなるのを感じた。

「ぜひお願いするわ!」

 彼女は、ほとんど食い気味に返事をしてしまった。知りたいという渇望が、彼女の理性をわずかに超えて溢れ出したのだ。

 二人の間に、目に見えない古き魔法の書の匂いが、一陣の風のように吹き抜けたような気がした。探求の旅は、静かに、そして確かに、始まろうとしていた。


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