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その晩、何度目かになるワーグナー家の捜査会議は、なんとも言えない重たい空気のまま、ゆるゆると進んでいた。部屋の中には、ランプの火が揺れるたびに、人の顔に影を落とし、まるで深い森の底にいるかのような静けさが満ちていた。

フリードリヒが口を開いたとき、その声は微かにざらついていた。

「トーマスとマリアに呪いを掛けた闇魔法使い――その正体が判明したかもしれん」

彼がもたらした情報に、皆の視線が一斉に集まる。

「セルゲイ・ペトロフという魔法使いが外国で捕まり、事情聴取の中で今回の擁壁崩壊事故に関わったって話が出てきたようだ」

これは、フリードリヒの知己である諜報筋に詳しい情報屋からの情報だという。遠い異国の地で、図らずも糸口が見つかったという事実に、安堵のような、あるいは、新たな暗闇への入口のような複雑な感情が渦巻いた。

しかし、その安堵はすぐに別の影に覆われる。

「崩壊した擁壁をかつて施工した会社の専務っていうのがどうも行方不明になっているらしい」

「死人に口なし、ですか……」誰かがぽつりともらした。

マスコミの中では、すでにそんな諦めにも似た見方が広がり始めているらしい。魔法の呪いと、人の欲と、そして、沈黙。物語は、いつも見えないところで、いくつもの絡み合った糸を紡ぎ出す。

「軍警察の捜査官が、これから事情聴取のためにセルゲイ・ペトロフに会いに行くそうだ」

フリードリヒの言葉に、一筋の光が差し込んだようにも思えたが、皆の顔には、この情報がもたらした疲弊の方が色濃く浮かんでいた。

そんな中、シュテファンが、沈黙を破るように、しかし、心底気にかけている様子で尋ねた。

「ところで、トーマス君は、今後どうなるんだ」

フリードリヒは、目を伏せるようにして答える。

「公務執行妨害か偽証か、そんな罪状になるだろうが、いずれにしても微罪だ。すぐに社会復帰するだろう」

彼は、言葉を選びながら続けた。

「ただ、前科者になるし、学歴も魔法学校中退と中途半端だから、就職はすんなりとは決まらなそうだね」

その言葉に、シュテファンはふっと顔を上げた。

「彼次第なんだけれど、うちの会社に来ないかなと思っているんだ」

フリードリヒは、意外そうな顔をした。シュテファンは、その意図を説明する。

「過酷な生い立ちを持っているということは、ガッツがあるということだとうちの親方は言うんだよ。彼の話を聞いて、ぜひ使ってみたいって。フリードリヒ、君から、聞いてみてくれないか」

シュテファンの声には、トーマスという若者の持つ、傷つきながらも折れない魂への、静かな敬意が滲んでいた。それは、この長く暗い事件の先に、ささやかながらも灯された、未来への希望の光のように感じられた。

フリードリヒは、その依頼を、深い溜息と共に受け止めた。物語は、まだ終わらない。闇魔法使いの呪いから解き放たれてもなお、若者の人生は、その先の新しい荒野を歩き始めようとしている。


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