訂正
ハワード医師が当初提出した、外科的手術と魔術のハイブリッド治療に関する壮大な論文は、現実の壁と学術界の規範にぶつかり、幾度も書き直しを余儀なくされていた。
その結果、先鋭的で野心的なテーマは削ぎ落とされ、より具体的で限定的な内容へと様変わりしていた。最終的に受理されたのは、『擁壁崩落事故の際の緊急医療における回復魔法の価値』という、現場での実証に基づいた、堅実な報告といった趣きの論文だった。
「より一般的なテーマとするには、証拠となるデータが少ないということでね」
ハワード医師の師匠筋にあたる、医学界の重鎮たちも、「この方が受け入れられやすいよ、ハワード」と、現実的な忠告を与えていたようだ。彼らは、ハワードの先見性を認めつつも、その斬新さが学術界に無用の波風を立てることを恐れたのだろう。
ハワード医師は、深い溜息と共に、ラウラに打ち明けた。
「ラウラ君が懸念した通りのことを言われたよ。私自身も、力が入りすぎて、功を焦ったかもしれないね」
その言葉には、研究者としての熱意が、世俗の常識によって抑制されたことへの、諦念と苦笑が混じっていた。彼は、医学の未来を遠く見据えていたが、今の時代が、その光を受け入れるには、まだ準備ができていないことを知ったのだ。
しかし、彼の表情は、完全に翳っているわけではなかった。
「だが、論文は受理されたよ。順番が回ってきたら、学会誌上に発表される。発表されたら、抜き刷りを進呈しよう」
その言葉には、一歩前進したことへの静かな喜びと、ラウラとカミラという若い力と共に成し遂げた共同研究への感謝が込められていた。彼の挑戦の記録は、医学と魔法の境界線に、確かに一つの足跡を刻んだのだ。




