マスコミ
長女クリスティーナから手渡された杜撰な公共工事の実態を示す資料は、元マスコミ人であるハンスの机の上に、不穏な重みをもって広げられていた。
彼は、元同僚で今もマスコミの現場で言葉の刃を研ぎ続けている仲間たちと、この情報をいかに記事化するかで、深い苦悩の中にあった。
「大きな事故も起きたし、下請け企業が過酷な状況で仕事をさせられていることも、社会正義を考えると報道したい。だが、証拠が弱いし、何よりも専門的過ぎて、一般大衆は関心を持てない」
それが、現実だった。ボルトの材質の違いや設計図の矛盾は、真実ではあっても、人々の感情を揺さぶる物語にはなりにくい。報道とは、真実の光を当てることと、その光を多くの人に届けるという、二つの使命を同時に負っている。
彼らは報道の突破口が見つからず、暗い議論を続けていた、まさにそのとき。決定的な情報が舞い込んできた。
擁壁破壊の容疑で逮捕・拘留されていた魔法使いが、「魔法を使って擁壁を壊したと証言しろと脅されていた」と言い出したというのだ。
不正な工事という俗世の闇と、闇魔法使いという異界の悪意が、突如として一つの線で結ばれそうになっていた。「『誰に脅されていたのか』、『脅していた闇魔法使いというのが、元請けの建設業者と繋がる』と、一気に分かりやすくなるんだがなぁ」
記者仲間は、一筋の光を見出したかのように、興奮気味に語った。不可解な魔法と金銭が絡む不正の組み合わせは、まさに世論を動かす物語の骨格である。
ハンスは、遠い目をして、軍人である長男フリードリヒのことを思い浮かべた。フリードリヒは、規則と秩序を重んじる男だが、妹クリスティーナが負傷したことを、たいそう怒っていた。彼の軍人としての正義感と、家族への愛情は、この闇を許さないだろう。
「よし、息子のフリードリヒが、そのあたりの情報を持っていないか聞いてみるよ。……彼なら、その闇の術者と建設業界の見えない糸を、すでに嗅ぎつけているかもしれない」
ハンスの顔には、元記者としての鋭い勘と、父として家族を守る決意が混じり合っていた。彼の次の行動が、この複雑な事件を、世論の舞台へと引きずり出す鍵となるだろう。




