生い立ち
先端医学研究所の病室は、静かで光に満ちた場所だった。ここで保護されているマリア・ジョーンズは、カミラとラウラの細やかな看病と魔法の力によって、健康を着実に取り戻しつつあった。
回復とともに、マリアは退屈を感じるようになった。それは、彼女の心と体から、呪いと疲弊という重い枷が外れた証拠でもあった。ラウラとカミラは、彼女の退屈しのぎのおしゃべりに、心からの同情と探究心をもって付き合った。
その中で、二人は、いまだ軍警察に収監されている息子、トーマスの過去と根深い苦悩について聞かされることになる。
ジョーンズ家は、古くは貴族の血を引く名家だったという。しかし、時代の波と運命の荒波の中で、いつしか没落し、今や壁の中のあの街で暮らすようになっていたのだ。
そんな過酷な生活の中で、魔力持ちの子トーマスが生まれた。それは、マリアにとって絶望の中の希望であり、国からの奨学金で魔法学校に入れることは、彼らを闇から引き上げる唯一の道筋だった。
あの街は、法よりも力が正義となる世界である。その中で、トーマスは攻撃魔法という暴力の言語を習得し、子供たちのリーダーになっていた。
「トーマスは、大人たちの容赦ない暴力から、幼い子供たちみんなを守っていたのよ」
マリアの言葉は、トーマスが攻撃魔法に執着していた理由を、痛々しいほど明確に示した。
「トーマスが攻撃魔法に執着していた理由が分かった気がするね」
カミラは、静かに頷いた。それは、自己表現でも学問的な興味でもなく、生きるため、そして愛する者を守るための、切実な手段だったのだ。
そんな生活だったため、トーマスは字を読むのにも苦労し、勉強の方は、塀の外の子供たちとは比べ物にならないほど遅れてしまっていたという。
「字を読むのにも苦労しているとは、思わなかった。魔法学校では成績は良くなかったけど、最低限はこなしていたよね」
ラウラは、トーマスの偽りの粗野さの裏に隠された、彼の生育環境の厳しさを知り、深く同情した。
さらに、彼の悲劇は続く。
卒業試験に失敗し、二回目の三年生をやっているときに、国による奨学金の支給が留年を理由に停止され授業料が払えなくなったトーマスは放校処分となった。魔法学校というある意味楽園から放り出され、卒業という未来への扉を閉ざされてしまったトーマスの生活は、荒れに荒れたという。
特に、卒業生が社会で活躍している姿を見聞きすると辛かったようで、仲の良い同級生だったラウラさんの奇跡が大々的に報道されたときは、すごく落ち込んでいたとマリアは語った。ラウラが希望の光となればなるほど、トーマスの闇は、深く濃くなっていったのだ。
ラウラとカミラは、次に軍警察に面会に行ったときに、トーマスの傷ついた自尊心と、孤独な魂を、どうやって励まそうかと、静かに考えていた。彼が再び光を見つめられるように、言葉の魔術を探るように、思索を巡らせていた。




