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黙秘

 フリードリヒ兄さんは、妹の焦燥を、軍人としての理性の枠の中で、できる限り受け止めようとしていた。彼は、静かに、しかし、その言葉一つ一つに重みを込めて、ラウラに語りかける。 「今も捜査中の事案だから、教えてあげられることは少ないけど、逮捕されているトーマス・ジョーンズはラウラの同級生で間違いないよ。擁壁破壊に自分の魔法を使ったことを認めている」


 フリードリヒの言葉は、ラウラの胸に、冷たい鉛のように沈んだ。トーマスがやった――その事実だけが、現実としてそこに横たわっていた。しかし、続く言葉に、事態の不可解さが凝縮されていた。 「動機については頑なに黙秘しているので、取り調べが長引いているみたいだよ。今教えてあげられるのはここまで」


 罪を認めたにもかかわらず、動機を語らない。それは、単なる「悪意」や「暴走」では片づけられない、何か深い事情の存在を匂わせていた。ラウラは、兄が規定という名の重い扉の隙間から見せてくれたわずかな真実に感謝し、深く頭を下げた。 「ありがとう、兄さん。教えてくれて」


 軍警察の詰め所を後にしたラウラは、冷たい石畳を歩きながら、考える。トーマスを突き動かした動機とは何なのか。その闇の深さを知るために、次に訪れるべき場所は、長女クリスティーナが務める土木建設局以外にはないと思えた。


 クリスティーナは、四人兄妹の中で最も現実に根差した場所で生きていた。彼女が携わるのは、大地を測り、街を造り、人々の生活を支える堅固な「土台」を築く仕事だ。今回の事件現場である擁壁も、まさに彼女の職域。もし、事件の背後に何か構造的な、あるいは行政的な問題が潜んでいるなら、姉なら何か知っているかもしれない。


 土木建設局の庁舎は、設計図と書類が山積みになった、鉛筆の匂いのする生真面目な空気に満ちていた。幸い、クリスティーナは執務室におり、ラウラを驚いた顔で迎えた。 「ラウラが私の職場にやって来たのは初めてね。一体どうしたの?」


 長女のクリスティーナは、知性と効率を重んじる人間だ。私的な感情を仕事場に持ち込むことを嫌う彼女の前で、ラウラは慎重に言葉を選んだ。 「姉さん、実はこの間の土砂崩れで、私の魔法学校での同級生が実行犯として逮捕されて。そんな馬鹿なことをする奴じゃなかったんで、何か事情があるんじゃないかと思って、姉さんが事情を知っているんじゃないかと考えて聞きに来たんだ」


 クリスティーナは、手元の書類から視線を上げ、真摯な、しかしどこか事務的な眼差しで妹を見つめた。 「ラウラ、ごめんね。そのことについては新聞で報じられている以上のことは、何も知らないんだ。この件の捜査と管理は軍警察の管轄だもの。フリードリヒ兄さんの方が知っているんではないの」


「兄さんにはもう聞いたんだけど、捜査中の事案のことは話せないって。トーマス・ジョーンズと面会できるようになったら教えてくれるって言ってくれた」


 ラウラの返答を聞き、クリスティーナは、妹の真剣さが単なる「おせっかい」ではないことを理解した。彼女の顔に、姉としての率直な懸念が浮かび上がる。 「ラウラ、まさかトーマス・ジョーンズって奴と、付き合って居たりはしないよね」


 その問いかけには、末の妹が、犯罪に手を染めた人間と感情的な絆で結ばれているのではないかという、姉としての心配が透けて見えた。ワーグナー家は、誰もがそれぞれの分野で真面目に生きる家だ。家族が世間の目に晒されることへの、かすかな恐れもあったのだろう。


 ラウラは、姉の疑念を打ち消すように、正直に、そして迷いなく答えた。 「仲のいい友達だったとは思うけど、付き合うとかそんなんじゃなかったよ。ただ、あの時のトーマスは、光のような人だったの。その人が、こんな闇に落ちるはずがない、そう信じたいだけなの」


 その言葉には、恋情ではなく、かつて共に学んだ者としての、純粋な友情の情熱と、真実を求めようとする魔法使いの探究心が込められていた。クリスティーナは、妹の瞳に宿る揺るぎない光を見て、それ以上は何も言わなかった。


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