魔法学校
この魔法学校は、一学年につき一クラス、生徒たちは三年かけて魔法使いとしての道を歩む。それぞれの学年の終わりには進級試験があり、これに合格できなければ、容赦なく留年となる。
一年生のクラス担任は、イザベル先生。その名を聞けば誰もが畏敬の念を抱くほどの、強力な魔女だった。特に攻撃魔法の技量は卓越しており、彼女が本気で放つ魔法は、嵐のようにすべてをなぎ倒すと言われていた。
二年生の担任は、ギュンター先生。彼は防御魔法の達人として知られていた。イザベル先生の激しい攻撃さえも完璧に受けきれる、強固な防御壁を作り出すことができると、生徒たちの間では伝説のように語り継がれていた。
そして、三年生になると、ミヒャエル先生が担任となる。彼は、あらゆる傷を癒す回復魔法の使い手だった。その温かな魔力は、生徒たちの心まで包み込むようだと、皆から慕われていた。
どの学年も、百人ほどの生徒が魔法を学んでいた。教育の中心は、古典的な魔法の数々だ。しかし、それだけではない。現代社会の中で魔法をどのように応用していくか、その実践的な知識も、彼らは熱心に学んでいた。古き良き魔法と、新しき時代の知恵。その両方を学ぶことで、彼らはやがて、一人前の魔法使いへと成長していくのだ。
ラウラは、魔法学校でも相変わらず優秀だった。ただ、故郷にいた頃とは違い一番ではなかった。魔法は、理論と実践から成り立っている。理論の部分は、教科書を読み解く座学だ。そこではラウラが優等生の座を勝ち取った。彼女はもともと読書が好きで、古語で書かれている魔法の教科書の言葉を魔法学校に来る前から読みこなしていたからだ。
だが、実践の部分は感覚的な要素が大きく、ラウラは必ずしも得意ではなかった。国費奨学生の同級生のトーマス・ジョーンズは、実践魔法において群を抜いていた。彼は、魔法を発動するときに「イメージ」が重要だとラウラに教えてくれたりした。「あそこに的があるだろう。的にむかって魔力をパッとぶつけるんだ。」パッと、という説明はある種の天才であるジョーンズにはわかりやすくても残念ながらラウラの理解をはるかに超えていた。
一年生の授業は、攻撃魔法の基礎が中心だった。トーマスは、その膨大な魔力量で相手を力ずくでねじ伏せるような攻撃を繰り出してきた。ラウラは、このやり方では、二年生で学ぶ防御魔法を使えば簡単に防がれてしまうだろうと感じていた。「トーマス君、あなたの今の力任せの攻撃魔法では防御魔法で防がれてしまうと思うの」とトーマスに話しても、「お前が言うな」とばかりに、彼はろくに耳を傾けてくれなかった。
魔法の発動にはイメージが大事、という教えは、実践が進むにつれて多くの生徒が理解していった。そして、そのイメージを構築するには、それまでの生活体験が大きく影響することがわかってきた。どちらかというと勉強一筋で生きてきたラウラは、しくじったかもしれないと一瞬落ち込んだ。だが、そのとき、彼女はこれまで読んできたたくさんの物語を、例えば炎を操る魔法使いの物語であればラウラ自身がその魔法使いになって炎の龍を操ったりすることを頭の中で映像として思い描いていたことを思い出した。イメージとは、こういうことだったのだ。
そのことに気づいてからは、ラウラの魔法の実践の成績はぐんぐん伸びていった。物語の中で語られていた魔法を、試しに再現してみることもあった。結界魔法と水魔法を組み合わせて、相手を溺れさせる。そんな、難易度の高い魔法も、ラウラにとっては訳なく出来てしまった。トーマスは「一年生が結界魔法を使うのはずるい」と不満を漏らしたが、ラウラは、「使えるんだから、いいじゃない」と、あっけらかんとしていた。彼女の魔法の根源は、教科書ではなく、彼女が愛してきた物語の中にあったのだ。
一年が終わる頃には、ラウラは理論と実践、その両方でトップクラスの成績を収めていた。進級試験も難なくクリアし、二年へと進むことになった。一方、トーマスは、理論の試験でずいぶんと苦労したようだ。彼のためにラウラが『これだけ覚えれば合格できる』と、要点をまとめた教材を作って渡した結果、彼はなんとか進級することができた。
進級した途端、トーマスはいつもの「俺様」に戻っていた。試験前にラウラに助けを求めてきた時とは態度がずいぶん違うので、ラウラは思わず笑ってしまった。