懸念
その言葉には、嘲笑を受けることへの諦めと、それでもこの真実を世に問いたいという、熱い期待の光が同時に灯っていた。ラウラとカミラは、その言葉の重さを、分厚い論文の束を通して、静かに噛みしめていた。
「ハワード先生、医学の世界に魔法を持ち込むことは馬鹿な事でもなんでもないと思います」
カミラが自分が受け継いできた魔法の知識から医学と魔法の共通性を語りだした。 「聖女の学ぶ魔法学は一般の魔法学と少し異なるのですが、その中で魔法の根源は呪い(まじない)、呪術から始まったと言われています。医学の始まりも呪術だったと聞いていますから、医学と魔法は同根なんだと思います。今のように医学が発展する前、古代の医学では病気は霊的な存在によるものとされ、祈祷や儀式で癒そうとしていたし、医師とは呪術師だった時代もあったはずです」
ハワード医師は笑って答えた。 「そこまで学問を先祖返りさせると医学も魔術も同根ではあるというのは分かるが、そこを強調するとそれも笑われる気がするよ」 そして、重ねて公開の了解を求めた。 「世の中にどんな評価を受けるかを確認するためにもこの論文を公にしてみたいんだ。君たちは了承してくれるかい」
ラウラは答えた。 「まだ実証の時間が短くてデータが薄い気がしますが、ハワード先生がこれでも議論の俎上にのせられると判断されるのであれば私は了承します」
カミラも続く。 「恥をかくのはハワード先生ということでお願いします。私は聖女として信者の方々から支持されていれば十分なんです」
その奇妙で厳粛な覚悟のやり取りから、数日後のことだった。 ラウラが、研究所の図書室で、論文の数値を追っていた午後。新聞の号外で擁壁の破壊犯の一人が捕まったということを知った。 擁壁破壊の実行犯としてトーマス・ジョーンズが軍警察に逮捕されているというのだ。その瞬間、手の中の論文の重さが、急に彼女の意識から消え去った。




