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家族の不安

「腎臓は精緻な臓器だから、回復魔法でも完璧には修復しきれていない。肝臓内の血管は修復して、大きな出血は止めたけれど、あとは自己修復の力に任せるしかないわ」 カミラはそう言って、額の汗をぬぐった。 クリスティーナは、運び込まれた時に比べて呼吸は落ち着いていたが、高熱は引いていなかった。


「姉さん、また来るね」 ラウラはそっと呟き、二人は次の病室へと移っていった。入院患者で症状が重篤な人は、クリスティーナを含めて八名程度。魔法治療によって、なんとか命は繋ぎとめられるだろうと考えられた。


 昼休みになると、面会室にラウラの家族が勢ぞろいしていた。


「ラウラ、クリスティーナの状態はどうなの?」 母のインゲが、心配そうに尋ねた。


 ラウラは答えた。 「姉さんはいまだに厳しい状態が続いているわ。聖女カミラの治療を受けているけれど、簡単な状況ではないわ」


 兄のフリードリヒは、「なぜお前が治療しない。お前の方が魔力では上だろう」と、やや責めるように言った。


 ラウラは、その言葉に耐えるように答えた。 「私の回復魔法では、姉さんを救えないの。内臓が損傷していて、その修復は、代々聖女を輩出しているカミラの家の秘術でないと無理なのよ。私は、私の魔力を聖女カミラに提供する形で協力するのが精一杯なの」


 説明しながら、なぜかラウラの目から涙が止まらなくなった。家族の心配と、自分の無力さ。そして、カミラの偉大さが、彼女の心に重くのしかかっていた。


 母のインゲがラウラを優しく抱きしめてくれ、「ラウラが頑張っているのは家族のだれもが分かっているわ」と慰めてくれても、涙はとめどなく流れるのだった。


 父のハンスは、母のインゲの肩を抱きかかえるようにしながら、家族全体を鼓舞した。 「多くの人が亡くなった今回の事故にあって、とりあえず生き残ったんだ。聖女カミラの回復の力で、クリスティーナが帰ってくることを信じよう」


 その言葉は、家族の心に温かく響いた。だが、父は声を潜めて、ラウラにだけ聞こえるように言った。 「クリスティーナを害するものが近づかないように、それとなく見張っていてほしい。実は姉さんは、内部通報があって、手抜き工事の内偵をしていて、今回の事故にあったんだ」


 ラウラは、その言葉に「ええっ」と息をのんだ。 「そのことは、病院関係者に話しても大丈夫なの?」 「ラウラが信頼できると思っている人であれば、大丈夫だ」 父の言葉には、重い響きがあった。


 ラウラは、とんだところで自分の攻撃魔法や防御魔法の出番が来るかもしれないと思い直した。それにしても、事故ではなく事件の可能性があるなんて、思いもしなかった。姉の命が危険にさらされているのは、単なる不運ではなかったのだ。ラウラの心に、新たな使命感が芽生えた。


 ラウラは、父の言葉に驚きを隠せず、尋ねた。 「何で父さんはそんなこと知っているの?」


「元新聞記者の人脈から流れてきた情報だよ」 父のハンスは、静かに答えた。


 ラウラは、姉の危険な仕事ぶりに胸を痛めた。 「姉さんは内偵なんて危ない仕事、いつから始めたのかしら」 そう呟くラウラに、父はさらに詳しく教えてくれた。


「通常の工事監理の範疇に入るらしいから、就職して以来だろう。今回は、工事業者の内部から、設計通りの材料を使わない工事をしているので、いつ擁壁が崩れてもおかしくないという通報があったらしいんだ」


 その言葉に、ラウラの胸に衝撃が走った。クリスティーナは、ただの事故に巻き込まれたわけではなかった。正義感から、危険な調査に身を投じていたのだ。ラウラの心に、姉への深い尊敬と、そして守らなければならないという強い決意が芽生えた。


 昼休みが終わり、ラウラの家族は、姉に会えないまま帰っていった。ラウラは「面会謝絶が解けたら連絡するね」と、家族に声をかけた。


 父からとんでもない依頼を受けたラウラは、ハワード医師に相談しようと思った。そして、カミラにも知っておいてもらおうと考えた。 午後の回診で三人が集まった時、ラウラは意を決して口を開いた。 「皆さんにお話ししたいことがあります」


 父親から聞いた話を伝え、ラウラ自身がクリスティーナの病室で寝起きしたいと申し出た。だが、ハワード医師から却下された。 「病院のスタッフは大人数だから、すべてが信頼できるかと言えば無理だろう。買収される者もいるかもしれない。だが、君を危険にさらすことは、私には看過できないんだよ」 それが、ハワード医師の考えだった。


 ラウラは、食い下がった。 「私は回復魔法も使えますが、攻撃魔法と防御魔法も得意です。万が一、姉の病室に害意のある者がやってきたら、結界を張って姉を守ることも可能なんです」


 ハワード医師は、少し驚いたように言った。 「君は多彩だね。一応考えてはみるが、病院にも警備担当者がいるから、そちらに任せる方がいいと思うよ」


 ラウラの願いと、医師としての責任感。その間で、ハワード医師は葛藤しているようだった。ラウラは、姉を守るためなら、どんな危険も厭わない覚悟を決めていた。


 カミラが、ラウラとハワード医師のやり取りに割って入るように口を開いた。 「私はシューマッハ家の秘術だけれど、『聖女の加護』という魔法が使えるの」


 ラウラは、その言葉に驚きを隠せない。 「聖女の加護なんて魔法、初めて聞いたわ」


「シューマッハ家の聖女しか使えない魔法だから、学校では勉強しない魔法ね」 カミラは静かに答えた。


 彼女は続けた。 「これを使っている間は、対象者へ回復魔法が使えなくなるという欠点もあるんだけど、毒や物理的な攻撃を防ぐ効果があるわ。クリスティーナさんの回復が進めば、この手も使える」


 その言葉に、ラウラはカミラの奥深さを改めて知った。聖女として代々受け継がれてきた、秘められた魔法。それは、ラウラの知る魔法とは、また異なる世界を示しているようだった。



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