魔法の制御
ラウラには、早くから魔法制御の先生がつけられていた。彼女のような、比較的大きな魔力を持つ子どもは、それが暴走した場合、死者を出すような大惨事を引き起こしかねないからだ。本格的な魔法の勉強が始まるずっと前から、魔法の制御だけは完璧に身につける必要があった。ラウラ自身、その恐ろしさについて身をもって知っている。うっかりした拍子に、彼女の手のひらから大量の水が溢れだし止められず、教室を水浸しにして、ついには初級学校の校庭を大きな水たまりに変えてしまったことがあったからだ。
国の教育システムの中でも、魔法に関するものは特別だった。魔力が発現したその年齢から、魔法制御の学習が始まり、試験に合格するまで、終わりはない。それは、人によっては生涯にわたる修行のようなものだった。そして、魔力が発現したにもかかわらず国に届け出をせず、「闇魔術師」となったことが発覚すれば、最高で死刑という重い刑罰が待っている。しかし、逆に国に登録された魔術師は、手厚い保護を受け、高い報酬を得ることができた。
ラウラは、先生の教えを静かに聞いていた。魔力という、自分だけの特別な力が、ときに恐ろしいものとなり、ときに人々の役に立つものとなる。その重さを、彼女は少しずつ理解し始めていた。それは、彼女の未来を大きく左右する、大切な学びだった。
ラウラは、魔法制御の試験に無事合格し、魔法学校への入学を許された。魔力を持つ子どもは数が限られるため、いくつかの国から集められ、都会から遠く離れた、雪深い山の中にある全寮制の学校へ入れられることになっていた。その学校は、まるで中世の城のようだった。ここで、魔法使いとしての技を磨くのだと聞かされた。
故郷では、群を抜くほどの魔力を持つと言われたラウラだったが、この学校に来てみれば、各地の抜きん出た魔力持ちの子供たちが集められた中ではその力はごく一般的なものだった。魔力は、基本的には遺伝するものなのだという。先祖に貴族がいた家系では、隔世遺伝で突然、魔力を持つ子どもが生まれることがあるそうだ。ワーグナー家では、母方の先祖に魔力を持つ者がいたという言い伝えが残されており、ラウラの力は、その血を引いたものだと考えられていた。
数百年ほど昔には、今よりもずっと多くの魔力を持つ人々がいたらしい。だが、文明が発達するにつれて、その数は減っていったという。魔法の暴走による事故が恐れられ、魔力を持つ人々が迫害された時代や地域もあったと、魔法学校の基礎の授業で教えられた。魔力を持たない人々に対して、差別意識を持たないようにと指導されたが、そのような意識が世の中に存在することに、ラウラは大きな衝撃を受けた。しかし、それでも彼女は、この新しい場所で、自分の力と向き合っていく決意を固めていた。