恩師への手紙
ハワード医師の判断で、動物実験は中止となった。魔法使いを未知のリスクにさらす危険性がある、というのがその理由だ。その代わりに、怪我や病気の人間の治療を通じて、医学と魔法のハイブリッド治療の研究を進めることに方針が変更された。この変更に、ラウラもカミラも、内心ほっとした。
カミラは、ハワード医師がいないところで、「最初からそうすべきだったのよ」と息巻いていた。
派遣されている先端医学研究所には、難病の患者や重症の患者が他の病院から回されて入院してきたり、運び込まれてきたりする。不幸にして、研究所の病院での治療の甲斐なく、不帰の人となることも少なくない。そうした、手の施しようがない患者を、魔法を使ったハイブリッド治療の対象にすることとなった。
患者の家族に魔法を使った治療を行うことを告知するかどうかは、主治医の判断に任されることになった。だが、命を救えて当たり前、救えなかったら魔法使いのせいとされるこの状況は、大いなるプレッシャーを感じるものだった。
しかし、聖女カミラは、涼しい顔で言い放った。 「聖女っていうのは、いつもそう。治せて当たり前、治せなかったら非難の的の中で仕事をするものだったから、何も変わることはないわ」
ラウラは、カミラも聖女として、このプレッシャーの中で、決して多くはない魔力で懸命に頑張ってきたのだなと、内心で感心した。そして、自分の魔力をカミラに融通するような魔法はないものかと、ふと心の中で思った。
ラウラは、魔法学校の恩師であるミヒャエル先生に手紙を書いた。 近況報告に加えて、同級生の聖女カミラ・シューマッハと縁あって同僚となり、医者とともに魔法と医学のハイブリッド治療の研究をしていることを綴った。そして、カミラに自分の持つ魔力を融通する魔法がないか探していること、先生にそうした魔法についての心当たりがないかということをしたためた。
ミヒャエル先生からの返事は、思いのほか早かった。
『教え子から手紙をもらえるのは、本当に嬉しいことだ。君が活躍している様子が、よく伝わってくる。聖女に勝るとも劣らない回復魔法の使い手になるとは、学生時代には予期できなかったよ』
先生の言葉は、ラウラの胸に温かく響いた。そして、彼女が最も知りたかったことに答えてくれた。 『魔力の融通は、魔法というよりは、融通される方と融通する方の気持ち次第だ。身体的な接触があれば可能だよ』
手紙の最後には、「時間ができたら、顔を見せに学校においで」と書かれていた。ラウラは、その言葉を読んで、魔法学校で過ごした日々を懐かしく思い出した。魔力の融通。それは、カミラの助けになるかもしれない、新しい希望の光だった。




