新たな研究テーマ
二人の魔法使いは、同じ道を歩みながらも、その心の内は全く違っていた。一人は、生まれながらの使命を背負い、もう一人は、自分の意志で道を選ぼうとしていた。だが、そのどちらもが、魔法という特別な力に導かれて、今、この場所に立っていた。
「ここでは、ラウラが見つけたテーマについて研究するんだって聞いたわ」 カミラは、不思議そうに尋ねた。
ラウラは、先日陸軍病院で起こった出来事を語り始めた。 「この間の、両足を再生した兵隊さん。再生後、お腹が空いたって、しばらく肉や野菜を食べ続けたの。それで、再生した足の材料は、その兵隊さんの別の部分から持ってきたのではないかと考えて……。もし体力のない人に、大規模な再生魔法をかけたらどうなるんだろう、死んでしまうのではないかって、疑問に思ったんだ」
カミラは、その話に静かに耳を傾けていた。 「確かに、再生魔法を使うと、再生した人はお腹が空いたってよく言うわね。私はせいぜい片腕くらいしか再生しないけれど、両足となると、かなりの量の肉と骨が必要だったでしょうね」
「その限界がどこにあるのかを研究する必要があると思ったのよ」 と、ラウラは真剣な眼差しで言った。
しかし、カミラはあっけらかんとした顔で言った。 「ラウラ以外に、そんな大規模な再生魔法は使えないんだから、大丈夫よ」
その言葉に、ラウラは少し複雑な気持ちになった。だが、カミラはすぐに表情を変え、新しい提案をした。 「再生魔法についての古い文献を読んでみましょう。先達からのアドバイスが見つかるかもしれないわ」
二人の魔法使いは、それぞれの知恵と力を持ち寄って、未知の領域への探求を始めることになった。
「シューマッハ家の蔵書から、ラウラの知りたいことが書かれている本を持って来たわ」 そう言って、カミラは数冊の古く分厚い本をテーブルに広げた。
「ざっと読んでみたけれど、あなたの言う通りだったわ。再生魔法では、肉体を材料として使うらしい」 カミラは、すでに読み込んだ内容を教えてくれた。 「下半身の再生なんかは、あらかじめ計画して、数度に分けて行うべきだと書かれているわ。『他の重傷者のいる部屋での魔法による再生はしてはならない』ともある」
ラウラは、その言葉に興味津々で尋ねた。 「始めた再生を、途中でうまく止められるのかしら?」
カミラはあっけらかんとした顔で、「そのあたりは、自分で勉強して」と答えた。
ラウラは、その言葉に微笑んだ。ある程度仮説ができたら、研究所にいる医師たちの意見も聞きたい。再生作業を分割するにしても、外科的にどこで区切りをつけるのが一番いいのか、きっと医学的な知恵が必要になるだろうと、彼女は考えていた。 魔法と医学、二つの異なる知識が結びつくことで、新しい扉が開かれようとしていた。
今日は、研究所の外科医と議論をする日だった。
「私はアンソニー・ハワード。外科医だ。この研究所に来てからは再生医療も手掛けているが、本来は切ったり貼ったりが得意でね」 そう言って自己紹介したのは、三十代にしては髪の薄い、快活な男だった。陸軍病院のシュミット医師は一緒に異動にならず別れることとなった。
「私はラウラ・ワーグナー。魔法使いです。陸軍病院から派遣されました」 「私は聖女カミラ。教会の所属です」
それぞれの挨拶が終わり、ハワード医師は探るような目でラウラを見た。 「それで、回復魔法と外科医療のハイブリッドは、誰の提案?」
「私です」 ラウラはまっすぐに答えた。 「陸軍病院での経験から、必要な知見だと考えて提案させていただきました」
「君の回復魔法はすごいらしいね。両足が欠損した患者の足を再生させたとか。そんなにすごい魔法が使えるのなら、魔法だけで十分じゃないのかい?」
ハワード医師の問いに、ラウラは真剣な表情で答えた。 「その患者さんは、若い兵士で体力があったので、事なきを得ました。ですが、もし患者の体力が十分でなかったら、再生魔法でかえって命を奪っていたかもしれないと、思い至ったのです」
ラウラの言葉に、ハワード医師はふっと笑った。 「外科手術でも同じことが言えるね。患者の体力を見誤ると、助けるつもりが殺してしまうことは、ありえることだ」
彼の言葉は、魔法と医学、異なる道を進む者たちが、同じような悩みを抱えていることを示していた。




