軍の期待
ラウラが「しばらく回復魔法を使っていなかったため、思ったよりも魔力を消費して、意識を失ってしまいました」と報告すると、シュミット医師の表情は険しかった。 「戦場で意識を失うことは、即、死を意味する。自分の力を過信せず、安全を確保してから魔法を使うように」と厳しく注意された。
「あの兵隊さんは、あの後どうなりましたか?」 ラウラの問いに、シュミットは少し顔を緩めて、 「無性に腹が減ったと言って、食堂で肉や野菜をガンガン食べ続けたらしい。今はリハビリで足の筋力の回復を図っているよ。ラウラにお礼を言いたいそうだが、今は止めている」 と兵士の様子を教えてくれた。
「再生術はどれくらいの規模まで可能なのか」と聞かれ、ラウラは正直に答えた。 「今回の再生範囲は自己新記録です。今までは、指一本とか、そんなものしかやったことがありませんでした」
その言葉に、シュミット医師は驚きを隠せないようだった。そして、「今後は、魔法を使う前に、どういう魔法を使うのか教えてくれるかな」と、ようやく少しだけ優しい口調で注意された。 ラウラは、この日、魔法の力だけでなく、軍という組織で働くことの難しさも、同時に学んだのだった。
翌日にはリハビリ室に足を再生した兵士を見舞うことができた。 兵士はまだ長い時間立つことができないと言っていたけれども、一気に思いを吐き出してきた。
「地雷を踏んだ時にはもう人生終わったと思ったんです。次に気がついたときに同僚の兵士から足は失ったが命は助かりそうだと言われて病院へ搬送中にまた気を失って。目が覚めたら無くなったはずの足があって、実は混乱してしまっていて、その時にお礼を言えなくてずっと気になっていたんです。ラウラさんのお陰で兵隊を続けられます」
ラウラは、 「私は身の程知らずに回復魔法を使ってしまって、あなたの命を危険に晒していたのかもしれないのです。お礼なんてしていただく資格は実はないんです。あなたが無事に回復してくれて本当に良かった」 と話したが、その兵士はその内容を完全には理解していないようだった。
両足を失った兵士の足を再生させたことは、瞬く間に陸軍全体に知れ渡った。そしてラウラは、さまざまな偉い人たちから話を聞かれることになった。 病院長のハインリッヒ少佐や、軍医総監のホルスト大佐が居並ぶ前で、今回の再生魔法について説明を求められた。
「任官後、シュミット医師から機会があれば回復魔法を見せるようにと言われておりましたので、演習中に大怪我を負った兵が運び込まれた時に、その機会が来たと思い、魔法を使ってしまいました」 と、ラウラは素直に答えた。
「それで、その時には魔法治療を指示されたのかね?」 と、ハインリッヒ少佐が尋ねた。 「いいえ、シュミット医師は止血と縫合を指示されました」 ラウラの答えに、少佐は頷いた。
「なぜ、回復魔法を使ったの?」 と、今度はホルスト大佐が優しい声で聞いた。 「この程度の怪我であれば、再生できると咄嗟に判断しました」 と、ラウラは答えた。そして、少し間を置いてから、 「その後、魔力切れで意識を失い、かなりのリスクがあったかもしれないと反省しました」 と付け加えた。
その言葉に、居並ぶ軍人たちの表情は一瞬複雑なものになった。彼らは、ラウラの力に驚嘆し、その力を軍で活用したいと願っていた。だが同時に、その力が彼女自身を危険に晒すものであることも、理解したようだった。 ラウラは、この時、自分の魔法が、自分の意思だけでは扱えない、大きな力を持つことを、改めて感じていた。




