ラウラの開眼
回復魔法の授業は、特別に聖女のカミラが講師となって、同級生たちに行われることになった。
カミラは静かに、しかしはっきりとした声で語り始めた。 「私は確かに聖職者の子孫で、回復魔法の才能も持っていたのかもしれません。ですが、実際に回復魔法が上達したのは、人体の仕組みについて、本や実践を通して知識を蓄えてきたからです」
彼女の言葉は続いた。 「医学、特に解剖学のテキストは、そのまま回復魔法のテキストになります。もし、回復魔法の上達を願う人がいるのであれば、ぜひ勉強してみてください」
ラウラは、その言葉の真意をすぐに理解した。回復魔法は、神の奇跡ではなく、あくまでも魔法なのだ。魔法である以上、発動には正確なイメージが必要となる。そして、その正確なイメージを持つためには、解剖学の知識が不可欠なのだ。
カミラは、すでに「聖女」として人々から崇められており、いずれ病人や怪我人のために、その一生を捧げることになるのだろう。ラウラは、その人生が、少し寂しいのではないかと感じた。 彼女は、回復魔法の特訓を、誰にも知られることなく、秘密裏に行おうと心に誓った。自分の魔法は、誰かのためだけに存在するのではない。それは、自分自身の人生を豊かにするためのものでもあるのだと、彼女は考えていた。
ラウラは、図書館に足繁く通い、解剖学や外科学、生理学といった基礎医学の専門書を読み漁った。内容は難解だったが、まず基礎知識を身につけようと考えたからだ。実践については、聖女カミラの治療を見学するという名目で同行し、その場に居合わせた医師たちに質問するなどして、自らの医学知識を磨いていった。 もちろん、カミラの治療を間近で見ることは、何よりの学びとなった。
時折、カミラがラウラに回復魔法を使わせることがあった。簡単な切り傷の治療だったが、血管や神経の走行、皮膚や筋肉の構造を正確に理解しているラウラの魔法は、カミラが使うそれと同じくらい効果を発揮した。カミラは、満足げな顔をしていた。
しかしラウラは、あまりカミラの近くで実践を続けると、聖女という特別な存在に自分の人生が取り込まれてしまうのではないかと感じた。彼女は、いったん回復魔法とは距離を置こうと決意した。もしカミラに何か聞かれたら、「卒業試験の対策を始めるから」と答えようと思っていた。
遠い場所で軍人として訓練に励む兄のフリードリヒのことを、ラウラは時折思い出す。もし、戦争が起こったなら、自分の回復魔法が兄の助けになるかもしれないと、漠然とだが考えていた。




