ワーグナー家
ラウラ・ワーグナーは、四人兄弟の末っ子で、家族の太陽だった。長女のクリスティーナ、長男のフリードリヒと次男のシュテファンに囲まれて、いつも笑顔を振りまいている。
クリスティーナは、家の中でいちばん賢い子だった。勉強はいつも一番で、初級学校では毎年、優等生のメダルを胸に輝かせていた。女の子で上級学校へ進むのは珍しい時代に、彼女は、はるか遠く、シュトラウスベルグにある全寮制のランデスシューレで、さらに高みを目指していた。
フリードリヒは、勉強こそクリスティーナには敵わなかったが、その身体能力は群を抜いていた。彼は軍人になることを夢見ていて、地元のギムナジウムで鍛錬を積み、連邦軍の体育学校を目指していた。
シュテファンもまた、姉に負けず劣らずの秀才だった。初級学校では優等生のメダルを当然のように手に入れていたが、彼は早く社会に出て自立することを望み、初級学校を終えるとすぐに実科学校へ進んだ。
そして、末っ子のラウラ。彼女は、おっとりとした性格で早くから文字が読め、本を読むのが好きな内向的な子であった。そして驚くほど勉強ができた。姉や兄がそうであったように、苦労することもなく優等生のメダルを手にする。フリードリヒは、兄弟の中で自分だけが優等生メダルと無縁だったことに内心、少しの劣等感を抱えていたが、持ち前のずば抜けた身体能力でその気持ちをねじ伏せていた。
ラウラは、まだ将来の夢を何も決めていなかった。けれど、彼女には他の兄弟にはない、特別な力があった。千人に一人しか現れないと言われる「魔力持ち」だったのだ。
しかし、その力は、ラウラの周りで時々不可思議な事象を起こしてしまい、近所の子供たちはラウラの事を気味悪がり、幼いラウラに友達が出来ない原因となっていた。だから、自分と同じような力を持った子供が集まる魔法学校へ進み、魔法使いの道を歩むのもいいかもしれない、とぼんやり考えていた。
父のハンスは、元新聞記者で、今は作家として地方紙にコラムや連載小説を寄稿している。母のインゲは新聞社でハンスと出会い、共に人生を歩むことになった。彼女は今も新聞社に籍を置き、整理部の仕事をしていたが夫の執筆を手伝うこともあった。そんな温かな家庭で、ワーグナー家の子供たちは、それぞれの夢に向かって歩み始めていた。