8.雪に埋もれた宝物と、魔法のお風呂
最近、PVが少しずつ増えてきて、「おっ?」と思っていたのですが、さらにブックマークまでしてくださっている方がいるのを見て、嬉しさと驚きでいっぱいです。本当にありがとうございます……!
少しでもほっこりしたり、楽しんでいただけているなら何よりです。
冬の朝、アウス村は真っ白な雪に覆われていた。木々の枝にはふわふわの雪が積もり、屋根の上からは氷柱が下がっている。
「ねえユース、薬草探しに行こうよ!」
そう声をかけてきたのは、明るい栗色の髪をポニーテールにまとめたフィリアだった。手には小さなバスケットと、雪を掘るための木製スコップが握られている。
「こんな寒いのに、薬草? この時期はさすがに……」
「ユースが前に言ってたじゃん。雪の下でも強く育つ薬草があるって。あれ、探してみたいんだよ!」
ユースは苦笑しつつも、フィリアのまっすぐな目に根負けした。彼女の好奇心は、時に彼の予想を超える行動力を生む。
「……じゃあ、防寒対策してから行こう。雪の中で風邪でも引いたら、探す意味がなくなるしな」
ユースは手をかざし、光魔法でフィリアのコートにほんのり温かな魔力を流し込む。
「わ、あったかい……これ、ずっと持続できたら最高なのに」
「うーん、まだ長時間は難しいけど、少しずつ改良してるんだ」
二人は村の外れにある、雪に埋もれた草地へと足を運んだ。
風が吹くたび、頬を刺すような冷気が肌を撫でる。それでも、フィリアは夢中で雪を掘り続けた。しばらくして――。
「……あった! これ、たぶんユースが言ってた“ヒエル草”じゃない?」
「ほんとに見つけたのか……! すごいな、フィリア」
ヒエル草は寒冷地に生える希少な薬草で、冷えによる体調不良を和らげる効果がある。しかも、乾燥させるとほんのりミントのような香りがするため、お茶にも使えるという。
「せっかくだから、これ使って“あったか魔法”の実験してみるか」
ユースは見つけた薬草を使い、小さな魔法陣を展開する。ヒエル草の成分に反応するよう魔力を調整し、熱を一定範囲に保つ新しい術式だ。
「ほら、手出して。……どう?」
フィリアが差し出した手に、ユースがそっと魔力を流す。じんわりとした温かさが彼女の掌を包む。
「……すごい。ぽかぽかする。これ、村の人たちにも喜ばれそう!」
「まだ範囲は狭いけど、応用すれば――」
そこまで言ったところで、フィリアがパッと顔を輝かせた。
「ユース、これ使って“お風呂”作れないかな? 雪の中に湯船作って、魔法で温めて……絶対気持ちいいよ!」
「雪の中に……お風呂……?」
突飛な発想に、ユースは一瞬唖然としたが、すぐにいつものようにフィリアの“やってみよう!”の眼差しに根負けする。
---
そして夕方、村の裏手にある小さな広場には、不思議な光景が広がっていた。
ユースが魔法で掘った浅い雪のくぼみ。その中に、ヒエル草の成分を活かした“あったか魔法”で温めた湯が満ちている。
「できた……魔力の維持、けっこう大変だけど、たぶんいける!」
「すごい……ほんとにお風呂になってる! 雪のお風呂だよ!」
二人は交代でお風呂に足を浸した。周囲は雪景色。けれど足元はぽかぽかと心地よく、湯気がゆらゆらと空へ登っていく。
「こういうの……王都じゃ絶対できないよね」
「うん。雪に囲まれて、でも温かくて。ちょっと夢みたい」
そう言ってフィリアは、ふと真剣な眼差しでユースを見つめた。
「ユースの魔法、すごく優しい。なんか、心まであったかくなるよ」
「……そ、そうかな」
不意に真面目なことを言われて、ユースは耳まで赤くなる。けれど、その横顔を見てフィリアはくすりと笑った。
「また一緒に実験しようね。次は、もっと大きい湯船で!」
「……あんまり無茶は言うなよ?」
冬の空に、二人の笑い声が静かに響いていた。