7.雪の中の村暮らしとあったかい甘さ
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アウス村に、白い季節がやってきた。
木々の葉が落ち、澄んだ空気に雪の匂いが混じり始めた頃、村人たちは冬を迎える準備に追われていた。
畑からはカボチャやサツマイモ、保存のきく根菜類が次々と収穫され、納屋に運び込まれていく。軒下では干し野菜や干し肉が風に揺れ、家々の庭先では、大きな桶に白菜や大根が漬け込まれていた。
ユースもそんな冬支度の手伝いに追われながら、改めて思う。
「冬って、もっとのんびりした季節だと思ってたけど……全然そんなことないよね」
「ふふ、そりゃあ、準備が大事だもん。春まで長いんだから」
雪囲いのために木材を並べていたフィリアが、にこっと笑って返してくる。
冷えた風が頬をなで、吐いた息が白く染まる。
ユースにとっては、転生後初めて迎える冬。朝は氷点下に迫り、外に出るたびに体がきしむような寒さに包まれるが、それでも村の人々は淡々と作業をこなしていた。
薪を割り、道を雪から掘り起こし、温かな囲炉裏を囲んで食事をする――そんな日常のひとつひとつが、彼には新鮮だった。
ある日、ユースは母のセラと一緒に、保存食の確認をしていた。
果実や乾燥ハーブ、塩漬け肉や燻製魚。セラは手際よく中身を確認しながら、ふと棚の奥からひとつのかごを取り出した。
「これ、秋にとっておいたカボチャよ。少し小ぶりだけど、甘みがあって団子にすると美味しいの」
「……団子?それって、甘いやつにもできるのかな?」
ユースの脳裏に、またひとつ“お菓子魂”が灯る。
寒い冬、体の芯から温まるようなスイーツ――それを作って、家族に食べてもらえたらきっと喜ばれるはずだ。
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試作の始まりは、失敗の連続だった。
蒸したカボチャを潰して、少しの小麦粉と練り上げて、丸めて焼いてみたが……食感がボソボソして固くなり、甘みも感じにくい。
「なんか……パサパサする……」
「ユース、焼きすぎじゃない?もう少し水分足してみたら?」
フィリアが火加減を見ながらアドバイスをくれる。
アウス村ではオーブンのような道具はない。囲炉裏の炭火と、フィリアの魔法で温度を調整しながらの挑戦だった。
何度も配合を変え、ようやく辿り着いたのが「かぼちゃ団子」。
柔らかく潰したカボチャに片栗粉を加え、ほんの少しの塩と蜂蜜を混ぜて団子状に丸めたものを、蒸し焼きにする。
団子がぷっくりと膨らみ、うっすら焼き色がついたところで取り出すと、ふわりと優しい香りが漂った。
ひと口頬張ると、もちもちした食感の中に、カボチャの自然な甘さとほんのりした塩気が広がる。
「うまい……あったかいし、これ、好きかも」
「うん!これ、寒い朝に食べたくなる味!」
囲炉裏の炭火の上に小鍋を置いて、ゆっくりと保温できるのも冬ならではの工夫。
ユースのかぼちゃ団子は、朝ご飯の一品やおやつとして、家族や近所の人々にも好評を博すことになった。
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もう一品、ユースが挑戦したのは「りんごとくるみの蒸しパン」だった。
納屋で眠っていた林檎と、昨年の秋に集めておいた胡桃。それに村で作られている粗い粉――小麦と雑穀を混ぜたものを使う。
りんごは薄切りにして煮詰め、くるみは軽く炒って刻む。
粉と水、少しの酵母を合わせ、そこに具材を混ぜて蒸し器にかけると、家の中に甘く香ばしい香りが広がった。
「これ……なんだかいい匂いね」
セラが目を細めて、台所に立つユースを見つめる。
蒸し上がったパンは、ふっくら柔らかく、林檎の甘みとくるみの香ばしさが絶妙に絡み合っていた。
焼き菓子ほどではないが、素朴でやさしい冬の味。
湯気の立つ蒸しパンを手に、家族で囲炉裏を囲む――それだけで、心まで温まる気がした。
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夜、ユースはフィリアと一緒に、家の前の雪をどけていた。
空は晴れて、満点の星が降るように輝いている。
「こうやって過ごす冬も、悪くないね」
フィリアが言う。
「うん。ちょっと忙しいけど……なんか、落ち着くよ」
湯気の立つ蒸しパンを手に、二人は縁側に腰を下ろした。
静かな雪の夜、二人の間に流れる時間はゆっくりと、あたたかだった。
「春になったらさ、もっと色んなお菓子作ってみたい。ガルドさんや、《疾風の翼》のみんなにも食べてもらえるようなやつ」
「……うん、きっと喜ぶよ」
フィリアが笑い、空を見上げる。
転生したこの世界で、過ごす初めての冬。
それは決して楽な季節ではないけれど、確かに、幸せの種がひとつずつ育っていく時間だった。