表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/74

51.貴族令嬢と氷の挨拶

※しばらく更新が途切れてしまったことについて、お詫びとご報告です。


実はここ数日、高熱で体調を崩してしまい、投稿をお休みさせていただいておりました。

楽しみにしてくださっていた皆さまには、ご心配とご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありません。


まだ本調子とはいえませんが、少しずつ回復してきたため、ゆっくりではありますが更新を再開させていただきます。


今後とも無理のない範囲で続けてまいりますので、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです!

 魔力の余韻が空気にわずかに残っている中、ユースは試験会場の中央からゆっくりと戻ってきた。


「ユース、すごかったね!」

 駆け寄ってきたフィリアが、ぱっと笑顔を向ける。

「皆、あんなに驚いてたよ。試験官の人、目を見開いてたし!」


「うん、まあ……ちょっとやりすぎたかも」

 ユースは頭をかきながら苦笑した。

 周囲の視線が未だにこちらへ向けられているのを感じると、どうにも落ち着かない。


「でも、あれだけはっきり見せたら、きっと大丈夫だよ。ね!」


 フィリアの励ましに、ユースは小さくうなずいた。


 その時――


「……あら、あなたたち、お久しぶりですね」


 凛とした声とともに、涼やかな気配が近づいてきた。

 整えられた銀色の髪、澄んだブルーの瞳。丁寧な所作でスカートを持ち上げると、クラリス・グラシアは優雅に一礼した。


「クラリスさん!」

 フィリアが驚きの声を上げる。


「クラリスさんも、試験を受けに来たんだね?」

 ユースも軽く会釈を返す。


 クラリスはうなずき、ふっと小さく微笑んだ。


「ええ、一応というところですわ。実のところ、私のような家柄であれば――試験は、形式的なものでしてよ」


「……そっか」

 ユースは曖昧に笑った。

 確かに、名門グラシア子爵家ともなれば、学園側もほぼ受け入れ前提なのだろう。


「なんだか、ズルいなあ……」

 フィリアがぽそっとつぶやくと、クラリスは少しだけ口元をゆるめた。


「まあ、それが“身分”というものですわ。でも、試験を受けるからには、それなりのことはいたしますけれど」


 その言葉に、ユースはなんとも言えない苦笑を浮かべた。

 特別扱いがある世界で、それを当然として受け入れている姿。

 けれどどこか、彼女なりに誇りと責任を持っているようにも感じた。


「そういえば――」

 クラリスがふと思い出したように言葉を継ぐ。


「アリシア王女も、今年から正式に入学されると伺いましたわ。国王陛下の方針で、王族の教育を民と同じ場で、と」


「……そっか。じゃあ、入学したら王女様と同じクラスかも……」

 ユースは困ったように笑った。

 王女、貴族、そして田舎の村人。すごい取り合わせだ。


「本当ににぎやかになりそうだね」

 フィリアも笑うが、その瞳には少し不安が滲んでいた。


 そんな中、クラリスがふいに少し真剣な顔を見せる。


「それで、ユースさん。ひとつ……お願いがありますの」


「え?」

 ユースがきょとんとする。


 クラリスはほんの少しだけ目線を落とし、言いづらそうに唇を噛んだ。


「入学したら、私にもフィリアさんのように、気安く接していただけないかしら」


「……え?」


「もちろん、身分の差があるのは承知していますわ。でも……同じ学園に通うなら、“同級生”ですもの」


 いつものお嬢様然とした口調に、ほんのかすかに人間らしい揺らぎが混じっていた。


 ユースは一瞬迷って、それでも柔らかく笑って返す。


「……その時は、善処するよ」


「ふふ、では期待しておりますわ」


 クラリスは満足げに一礼し、再び背筋を伸ばして立ち去っていった。


 残されたユースとフィリア。

 フィリアは黙ったまま、ぷいっとそっぽを向いた。


「……善処ってなに?」


「え?」


「なんでクラリスさんには敬語なの? 私にはそんな風に言わないのに」


「そ、それは……クラリスは貴族だし、まだそんなに親しくないからさ」

ユースは慌てて弁解した。


 フィリアはじっとユースを見て、ふーっとため息をつく。


「……ま、いいけど」


「え、ほんとに?」


「ほんとにって言ってるでしょ!」

 フィリアはぷくっと頬を膨らませた。


 でもそのあと、少しだけ口元をゆるめて、そっと言った。


「……でも、私のことも忘れないでよね。ユース」


「忘れるわけないって」


 それだけで、少し照れくさい沈黙が二人の間に流れた。

 試験の終わりとともに、学園での新しい日々が、確かに近づいてきていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ