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5.はじめてのトンカツ、そして未来の夢

レオンから手渡されたオークの肉。見た目はやや野性味があるものの、しっかりとした赤身に脂ものっていて、旨味の詰まった良い肉だとユースは直感した。


「どうやって調理しようか……」


 小屋に戻る途中、ユースは腕を組んで考える。普通に焼くだけでも美味しそうだが、せっかくなら、もっと驚かせたい。


「ねえユース、何作るの?」フィリアが横から聞いてくる。


「うーん……そうだ、トンカツにしてみようか。あと、今日採れたリンゴも使って、簡単なスイーツを作るよ」


 その言葉にフィリアの目が輝いた。


「楽しみ! じゃあ、火加減は任せて!」


 家に戻ると、ユースの母・セラが出迎えてくれた。事情を説明すると、にこやかに手伝ってくれることに。


 三人はすぐに調理に取りかかることになった。


 フィリアは火力担当。薪に火をつけて、鍋の油の温度を安定させるのが彼女の役目だ。火属性の魔力を持つフィリアにとってはお手の物。


 セラは、下処理を終えたオークの肉に小麦粉、卵、パン粉を丁寧につけていく。


 ユースは揚げ担当。サクサクの衣にするために、温度とタイミングを見極めて慎重に揚げていく。


 ジュワッと良い音が油の中から響く。香ばしい匂いが部屋に広がる中、ユースはふと手を止めた。


(オークの肉でトンカツか……)


 異世界に転生してから、何度か不思議な体験はあったが――こうして異世界の食材で、自分の知っている料理を作っていると、改めて“異世界に来たんだ”という実感が湧いてくる。


(……大人になったら、一度は冒険に出てみるのも悪くないかもな)


 そんな思いを抱きながら、最後の一枚を揚げ終えた。


「できた!」


 皿に並べられたトンカツは、黄金色に輝いていた。


「な、なにこれ……初めて見る……!」と、フィリア。


「カリカリで……美味しそう!」と、セラも感嘆の声を上げる。


「じゃあ、味見してみてよ」ユースが皿を差し出すと、二人は箸を取って口に運んだ。


「うまっ……! なにこれ、めっちゃジューシー!」「衣がサクサクで、でも中は柔らかくて……!」


 二人の反応にユースも笑みを浮かべた。



二人がトンカツを食べている間に、ユースは収穫したリンゴを取り出した。


「よし、今日はハチミツとバターでソテーにしよう」


村で採れたリンゴを薄くスライスし、バターを溶かした鍋で優しく炒める。仕上げに村の蜂蜜をたっぷりと垂らせば、ふんわりと甘い香りが広がった。


フィリアとセラがまたしてもじっと見つめてくる。


「……やっぱり、食べたいよね?」


苦笑いしながら聞けば、二人はこくこくと力強くうなずいた。



 しばらくの間、幸せな味見タイムが続いた。



---


 料理を皿に盛り、ユースたちはそれを持って村の広場へと向かった。


 すでに日も落ちかけ、広場では村の大人たちが集まり、酒盛りが始まっていた。ガルドが用意したらしいお酒が並び、ユースの父やフィリアの父も楽しそうにしている。


「飲みすぎないでくださいねー」ユースが少しだけ声を張って注意すると、ガルドたちが笑って手を振った。


「おっ、来た来た! それが今日の料理か?」


 疾風の翼のメンバーが集まり、ユースの作ったトンカツとリンゴのスイーツに興味津々。


「これは初めて見る料理だな。前の料理もすごかったし、これは期待できる!」とレオン。


 早速一切れ口に運んだレオンが、目を見開いて叫ぶ。


「う、うまい! これ、すごいな! 肉の旨味が閉じ込められてる!」


 その声に、周囲の村人たちも興味を持ち、少しずつ分けてもらって食べ始める。


「なにこれ! こんな料理、初めて食べたよ!」


 カイルやミーナ、エルナはリンゴのスイーツに舌鼓を打ち、幸せそうに目を閉じた。


「ん〜……とろける……」


「リンゴがこんなに美味しくなるなんて……」


---


「なあ、ユース。フィリア。お前ら、冒険者になってみる気はないか?」

トンカツを頬張った後、レオンがにやりと笑って切り出した。

「いきなりだね…」と苦笑するユースに、レオンは指を立てる。


「お前の光属性って、ラウディア王国に他にいねぇんだろ?こんなやつ、冒険者ギルドが放っておくわけがねぇよ」


「それにフィリアちゃんもすごいよね!」とミーナがスイーツを口に運びながら言う。


「火属性ってだけで貴重なのに、あの魔力のコントロール精度……訓練してない子とは思えない。」


「…そうだな」とカイルも頷く。


「なにより、ユースの料理が毎日食べられるかもしれないって、夢あるじゃん?」

「それ目当てでしょ……」とフィリアが呆れ顔で突っ込むと、一同が笑い声を上げた。


「ユースくんの光属性は、あたしたち冒険者にとっては本当にありがたいよ!旅の途中でケガしたり毒を受けたりすることなんて日常茶飯事。そのたびに癒してもらえるなら、もう手放せない存在だよ!」


「しかも」

レオンが指を一本ずつ折りながら数え始める。

「うまい料理、万能回復、属性レア、あと見た目も悪くねぇ」

「最後のいらないでしょ」とエルナがくすっと笑った。


「まあ、今すぐってわけじゃないけどさ」


ガルドが空になった酒杯を置いて言う。

「来年の春、成人の儀をしに王都に行くとき、一緒に行こうって話だ。ついでにギルド見学でもどうだ?」


「冒険、か……」

ユースは夜空を見上げながらつぶやく。

この村の暮らしが好きだ。けれど、外の世界を見たい気持ちもある。


「私は、ユースが行くなら行くよ」

フィリアが当然のように言って、ユースの肩をぽんと叩いた。


「よし、決まりだな」

レオンが満足そうに笑い、杯を掲げる。

「来年の春、王都行き、そして冒険の第一歩だ!」


「それまでに、旅先でも作れる料理を考えておかないとな」

ユースがぼそっと言うと、ミーナがぱっと目を輝かせた。


「えっ、それ最高! ユース旅飯全集とか作ってほしい!」

「旅の途中で『今日の夕飯なーんだ?』って聞かれて『またユースのトンカツだ!』ってなるの楽しそうだな!」

レオンの言葉に一同爆笑。


---


おまけ


 翌日――村のあちこちから呻き声が聞こえてきた。


「うぅ……頭が割れそうだ……」


 お酒を飲みすぎた村の男たちは、見事に全員二日酔い。朝から元気な女性陣にこっぴどく怒られていた。


 ユースはというと、パンを焼きながら小さくため息をついた。


「まったく……昨日あれだけ飲みすぎるなって言ったのに……」


 苦笑いしながら、またいつもの日常が始まった。

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