47.その笑顔に、負けたくなくて
※お知らせとお願いです。
本日投稿した分の前に、本来昨日投稿する予定だった話を改めて追加いたしました。
先に本日の話をご覧になった方には、お手数をおかけしますが、もしよろしければ前の話もあわせてお読みいただけると幸いです。
話の流れがよりスムーズに伝わるかと思います。
どうぞよろしくお願いいたします!
ユースが優しく頷くのを見届けてから、アリシアは振り返り、付き人たちのもとへと戻っていった。
フィリアは、少し離れた場所からその様子を黙って見ていた。
言葉にならない何かが、胸の奥でぐるぐると渦を巻いている。
(……ずるいよ、あんな笑い方)
王女であるアリシアは、眩しい光のようだった。ふわりと場の空気を変えるあの存在感。
けれど、ユースの隣にいた時間は、自分のほうが長い。
笑った顔も、怒った顔も、ちょっと寝ぼけた朝の顔だって、知っているのに――。
「……はぁ。やんなっちゃう」
ぽつりと小さく呟いてから、フィリアは広場の片隅で片付け作業をしていたユースのもとへと歩み寄った。
「ユース、手伝うよ。ほら、こっちの箱、まだ運んでないでしょ」
「あ、ありがと。無理しなくてもよかったのに」
「してるわけじゃないよ。ただ――ユースと一緒にいたいだけ」
「え?」
「な、なんでもないっ!」
思わず口に出てしまった言葉に、自分で驚き、慌てて顔を背けた。
だけど、止められなかった。胸の奥からあふれてくる気持ちが、どうしても押さえきれなかった。
「……ずっと一緒にいるって、昔言ってくれたよね」
「え、ああ……うん。言った、かな。子どもの頃に」
「ううん、ちゃんと覚えてる。だから――」
そのとき、風がふわりと吹き抜けた。冬の冷たさの中に、甘く焦げたスイーツの残り香がまだ微かに残っていた。
「だから、あたし……ユースがどこに行っても、ついていくから。隣にいていいでしょ?」
静かな声だった。けれどその言葉には、迷いのない思いが宿っていた。
ユースは少し驚いたように目を見開き、それから、ゆっくりと頷いた。
「……もちろん。フィリアは、ずっと俺の隣にいてくれるって、信じてたよ」
「……ばか」
フィリアは照れ隠しのように笑いながら、小さく呟いた。
そして――二人の距離が、ほんのわずか、縮まった。
その様子を、馬車の陰からちらりと見ていたアリシアは、小さくため息をつくと、口元に指を当てて小さく笑った。
「……まだまだ、簡単にはいかないわね。でも――だからこそ、面白いのよ」
王女の瞳は、冬の空のように澄んでいた。
そして、その視線の先には、変わらず寄り添う二人の姿があった。