4.白砂糖と冒険者たち
リンゴ収穫が終わり、ユースとフィリアはほっと一息つきながらユースの家へと戻った。
玄関先で迎えてくれた母・セラは、少し困ったような顔をしていた。
「ユース、行商人のガルドさんと、それから一緒に来てる冒険者さんたちがあなたを探していたわよ」
それを聞いて、ユースはすぐに察した。
(たぶん、白砂糖の件だ)
「フィリア、ちょっと付き合ってくれる?」
「もちろん!」
ユースはあらかじめ準備していた白砂糖の包みを手に取ると、フィリアと共に急ぎ足で村の広場へと向かった。
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広場の外れにある木陰で、いつもの顔ぶれを見つけた。行商人のガルドと、彼に雇われている冒険者パーティーが腰を下ろしていた。
「やあ、ユース。ちょうど君を探していたところだ」
軽く手を上げたのは、いつもの調子のレオン。冒険者パーティー《疾風の翼》のリーダーで、快活で面倒見のいい兄貴分だ。
アウス村と町をつなぐ定期の護衛任務で、彼らはもう何度もこの村に立ち寄っている。最初に出会ったときこそ緊張したけれど、今ではすっかり打ち解けていた。
ユースたちが近づくと、ガルドも立ち上がって出迎えてくれる。
「ユース坊や、いいタイミングだ。今日は例の“甘いやつ”を期待してきたんだよ」
「はい、これです。いつもの分ですけど」
そう言ってユースは白砂糖を渡す。ガルドの目が一瞬で輝く。
「……これだこれ! こいつがうちの嫁さんの好物でねぇ。前に持って帰ったら、貴族様の高級菓子より美味しいってさ」
「それはよかったー」
「で、ちょっとお願いがあるんだがな、この白砂糖、もっと大量に作れたりしないか?」
ユースは困ったように苦笑して首を振った。
「難しいんです。精製に使ってる圧搾機は、フィリアの父さんが作ってくれた特製のやつなんだけど、量を増やすと壊れそうで……。それに、最終的な不純物の除去には、僕の光魔法を使ってる。これは誰でもできるわけじゃないから」
「なるほどな。じゃあこれは……うち用でキープだな。貴族様にバレたら面倒ごとになるし、内緒にしとくさ」
ガルドは諦めた様子で白砂糖を仕舞いながら笑った。ユースもほっと胸をなでおろす。
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その隣では、フィリアがミーナとエルナに今日収穫をしたリンゴのことを楽しそうに話していた。
ミーナは陽気な弓使いで、甘いものには目がない。初めてユースの作ったジャムを食べたときの、あの輝いた瞳は今でも忘れられない。
一方のエルナは冷静で知的な魔法使い。初対面ではちょっと怖い印象だったけど、今では彼女がこっそりおかわりしていたことも知っている。
ふたりとも、ユースが作る甘いものの虜になっていた。
「ユースくん、そのジャム……分けてもらえる?」
「もちろん、明日までに作っておくよ」
ふたりの少女は嬉しそうに笑った。
そして、少し離れた木の根元に座っていたのはカイル。無口で控えめな戦士で、盾役としては頼れる存在。パンにジャムを塗って静かに頬張っていた姿が印象的で、ユースとは言葉少なに通じ合う関係だった。
ユースはそっと声をかける。
「カイルさんの分も、ちゃんと作っておきますね」
彼は無言のまま小さく頷いた。
(うん、わかりやすい)
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最後に、レオンがユースの肩に手を置いてきた。
「そうだ、ユース。実は良い肉が手に入ってな。今日の晩飯、お願いしてもいいか?」
「わかりました、何か考えておきます」
肉といえばレオン。最初に振る舞った肉の煮込みに感動して、毎回何かしらの肉料理を頼んでくる。
食材を受け取りながら、ユースは晩御飯の献立を頭の中で組み立て始めていた。