30.スイーツは絆の味 ~村の笑顔と小さな奇跡~
朝靄が晴れ、アウス村の空に柔らかな光が射し込む。
村の広場では、今日もひときわ甘い香りが漂っていた。
「ユース、今日の火加減、ばっちりだよ!」
「ありがとう、フィリア。昨日よりカステラの焼き色も綺麗に出てるね」
二日目となる週末限定のスイーツ屋台。
初日の手応えを受け、ユースとフィリアは朝から張り切って準備していた。
焼きたてのふわふわカステラは、しっかりと膨らみ、切り口からは湯気とともにバニラに似た甘い香りが立ち上る。
一方で、「光のゼリー」も新たに改良され、より透明度が増し、光の粒が宝石のように輝いていた。
屋台の前には、朝から子どもたちの列ができている。
「わー! 光のゼリー、もっと光ってるー!」
「昨日食べたやつ、おばあちゃんに分けたら、すっごく元気になってたよ!」
小さな手にゼリーを持ってはしゃぐ子供たち。その声に、ユースは少し驚いた顔をする。
「え……本当に? ただのゼリーだったはずだけど……」
「ユースの光魔法の水、癒しの力が残ってるんじゃない?」
フィリアがぽんと手を打つ。ユースはうなずきながら、遠くから歩いてくる一人の老人の姿に気づいた。
---
「おはよう、ユースちゃん、フィリアちゃん」
優しい笑顔を浮かべるのは、村のおばあちゃん。昨日ゼリーを食べたという子の祖母だ。
「昨日はありがとうねえ。あれを食べてから、なんだか身体が軽くなってね。朝から畑に出られたんだよ」
「えっ、本当ですか!?」
ユースは驚きつつも、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「昔から、光魔法は人を癒す力があるって言うけど、食べ物にまでその力が残るなんて……」
ミーナはふふ、と笑って言った。
「甘い味も、ユースちゃんの優しさも、ちゃんと届いてるのよ」
その言葉に、ユースは言葉を失った。
自分の作ったお菓子が、人を笑顔にし、元気づける。そんな未来は、想像していなかった。
---
昼過ぎ、屋台の賑わいはピークを迎え、カステラはあっという間に完売。
ゼリーも残りわずかとなった頃、ベックが屋台を眺めながら腕を組んでいた。
「ほう、こりゃあ立派なもんだ。だが……屋台の作り、もう少し頑丈にした方がいいな。今度、オレが改良してやろう」
「本当!? ありがとう、お父さん!」
「ふん。お前らがこんなに頑張ってるのを見たら、放っとけるかよ」
照れ隠しのようにベックが背中を向けると、フィリアがくすくすと笑った。
「ほら、ユース。これが村の絆ってやつよ」
「うん。スイーツって、こんなふうに人と人をつなげられるんだな」
ユースはしみじみとつぶやいた。