3.リンゴと甘い夢のレシピ帳
「なあフィリア、そろそろリンゴ、採りごろじゃね?」
アウス村の果樹園の外れ、ユースはリンゴの木を見上げてにやりと笑った。
枝から覗く赤く色づいた実たちが、秋の陽射しを浴びてきらきらと輝いている。
「うんっ、今日が一番いいかも! ねえユース、リンゴで何作るの?やっぱりお菓子?」
フィリアが元気よくポニーテールを揺らし、ユースを見上げる。
エメラルドグリーンの瞳が期待でまぶしい。
「うーん、ジャムにするか、焼きリンゴにするか……いや、いっそアップルパイ?」
そう言ってユースは口元に指を当てて考える。
素材の確認、調理工程、再現の難易度……転生前の知識が自然と働く。
(パイ生地の材料は……小麦粉とバター。よし、バターはもう作れるようになってるし問題なし)
村の牛たちからとった新鮮なミルクを搾って、自作バターをこっそり試作済み。
乳脂肪を分離して塩加減も調整して、手間はかかるけどその分味は格別だった。
ただ――。
(やっぱりあれが欲しいんだよな。シナモン。あれがあると、アップルパイの完成度がグッと上がる)
シナモン――甘くスパイシーな香りの魔法の粉。
けれど村の人や定期的に訪れる唯一の行商人、冒険者に聞いてもそんなもの知らないと言われるばかり。
ユースだけがその存在を知っている。
(いつか見つけてやるぞ……俺の“将来手に入れたい食材リスト”のトップ、シナモン!)
ちなみにそのリスト、すでにチョコレート、シナモン、生クリーム、バニラ、ベーキングパウダーなどでいっぱいだった。
ほぼ夢の食材図鑑である。
「ユース〜?また甘いもののこと考えてるでしょ?」
「ば、バレたか」
「ふふっ、じゃあ今日は何作るの? ジャム?それとも、バター使って何か焼いちゃう?」
「よし、今日はジャムと焼きリンゴ、二段構えでいこう。砂糖煮にして、トロッとさせてな」
「わあ、それ絶対おいしいやつ!じゃあ、リンゴたっくさん収穫しなきゃね!」
ふたりはかごを手に、赤く熟したリンゴをぽこぽこと収穫し始めた。
まだまだ完璧なレシピとは言えないけど、
ひとつひとつの甘い挑戦が、ユースの魔法とお菓子の旅を少しずつ形にしていく。
目指すは村一番――いや、王国一番のスイーツ職人(兼・村の魔法使い)!
今日もアウス村には、ほんのりと甘い香りが流れていた。