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23.魔法学園見聞録

 ――仮入学の登録を終えて、数日が経った。


 学園からは、仮入学生として最低限の説明と案内を受けていたが――この日、二人は改めて研究棟を訪れ、担当教師であるアストレイ先生の案内のもと、本格的に学園内を見学することとなった。



---



「では、まずは全体の構造からお見せしましょう。案内といっても広いですから、今日で全部は回れないかもしれませんが……」


 そう言って歩き出すアストレイの背を追い、ユースとフィリアは学園の石畳の道を進む。

 学園の敷地は広大で、まるでひとつの街のようだった。整然とした講義棟、石造りの塔のような研究棟、実技訓練場、そしてなにより目を引くのは――


「あれ……すっごく広い場所がある! あれって、何するところですか!?」


 フィリアが目を輝かせて指差した先。そこには一面の広場と、その中央に刻まれた巨大な魔法陣。


 さらにその周囲を囲うように立っているのは、白銀に輝く柱――結界の制御装置のようだ。


「こちらは魔法実技演習場。属性別の訓練や、模擬戦の訓練もここで行われます」


「模擬戦って……生徒同士で?」


「ええ。もちろん、許可を得て安全に配慮された形で、ですがね」


 アストレイの説明に、ユースは目を細めて演習場を見つめる。


(これは……防御結界だけでなく、魔力の流れを誘導する制御陣もある。村にはない発想だ)


 光属性として、そして魔法使いとしての自負はある。しかしこの学園には、自分の知らない高度な技術と体系が確かに存在していた。


 その事実に、胸が静かに高鳴る。


 知識を吸収したい。技術を身につけたい。村を豊かにしたい。

 そのために、この学園で得られるすべてが必要なのだと、ユースは改めて思った。


「ちなみに、仮入学生であっても訓練場の見学は可能です。使用許可は本入学後になりますが、見て学ぶことも重要ですからね」


「見て学ぶの、大好きです! ユースと一緒に、いっぱい勉強したいな!」


 フィリアがにっこりと笑って、ユースの腕にぴたりと寄り添う。無邪気な笑顔に、ユースも思わず小さく笑った。


「……うん、俺も。やれるだけ、頑張るよ」


「うふふ。では、お次は図書館へご案内しましょう」


 アストレイが軽やかに手を振ると、風に乗るように彼のローブがひらりと揺れた。



---




 案内されるままに敷地内を歩くうち、目の前に威風堂々たる建物が現れた。


 白い石造りの重厚な外壁。天を突くような尖塔。両開きの扉の上には、装飾的なレリーフが刻まれている――魔導書と羽根ペンが交差する、学術の象徴。


「ここが図書館です。正確には『王立アカデミー付属魔導文庫』という名がついています」


 アストレイが足を止め、少しだけ誇らしげに言う。


「ラウディア王国でも有数の蔵書数を誇ります。魔法理論、錬金術、薬草学、魔獣学、歴史学……この学園で学ぶために必要な知識の多くが、ここに収められているんですよ」


「うわぁ……!」


 フィリアが思わず感嘆の声を漏らし、ユースも自然と息を呑んだ。


 扉をくぐると、内側には静謐な空気が広がっていた。高い天井まで積み上げられた書架。魔導式の光球がふんわりと灯り、無数の本を穏やかに照らしている。


 そこにあるのは、まさに――知識の海だった。


「……すごい」


 思わず口にしたユースの声は、自分でも驚くほど小さかった。だが、それ以上に心の中はざわついていた。


 これまでユースが接してきた書物といえば、旅の商人が持ってきた簡易な指南書がほとんどだ。


 だが今、目の前にあるのは王都の叡智。体系立てられた理論と、整理された膨大な情報。世界の広さと深さが、否応なしに迫ってくる。


 その圧に、ユースの背筋が自然と伸びた。


「……この図書館、仮入学の僕たちも使えるんですか?」


「ええ、ただし利用時間に制限があります。本入学の生徒は朝から夕方まで自由ですが、仮入学生は午後の三時間以内。貸し出しも閲覧室内に限られます」


「でも、読むだけでも十分すぎます!」


 ユースが興奮気味に本棚を見上げる。目を輝かせ、まるで宝石を見ているかのようだった。


 その様子にアストレイも頬を緩める。


「その意欲、大事ですよ。ですがここでは声をひそめてくださいね。利用者の多くは高学年の研究生や、教師たちですから」


「は、はいっ」


 重々しくも美しい場所――それが、この図書館だった。


 しばしの見学のあと、三人は再び図書館の外へ出る。


 


「さて、次は……講義棟を見ておきましょうか。あちらでは座学や専門研究が行われています。今日の案内の最後にしましょう」


「お願いします!」


「はいっ」


 


 二人は、再び歩き出す。


 目に映るすべてが新鮮で、知らないことばかり。けれどそれが、どこか嬉しくもあった。

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