21.謁見の間にて──王の眼差し、若き光に注がれる
甘い香りが漂うティーセットの余韻が、まだ空気の中に残っていた。
「ふふ、今日のスイーツもとってもおいしかったわ、ユース様」
アリシアは小さな手を胸の前で組み、にこにこと満足そうに微笑んでいる。
その隣では、クラリスがそっとティーカップを置き、満ち足りた表情を浮かべた。
フィリアはというと──空になった皿を名残惜しそうに見つめていた。
「ねえユース、もうひとつだけ……」
「ダメだよフィリア、これお茶会用に持ってきた分で最後なんだから」
「むぅ~……今度、倍作ってね!」
「……それじゃあ、今度は村に戻ってからね」
そんな、ほのぼのとした雰囲気の中。
控えていたひとりのメイドが、足音もなく近づいてきた。
アリシアの耳元へ屈み、そっと言葉を囁く。
「アリシア様、陛下との謁見のご準備が整いました」
その瞬間、アリシアはふわりと椅子から立ち上がり、軽やかに手を合わせた。
「それでは──そろそろ、陛下のお部屋へ向かいましょうか」
「へ……?」
何気ない調子でそう言ったアリシアに対し、ユースはきょとんとした顔をした。
クラリスも手を止め、フィリアに至っては椅子の上で軽くのけぞっている。
「ちょ、ちょっと待って! 陛下って、あの陛下? 王様の……!?」
「ええ、そうですわ」
「なんで!? なんでユースが王様に会うの!? 何か悪いことした!?」
「フィリア、さすがにそれはないよ……いや、ないよね!?」
慌てふためくふたりに、アリシアはくすりと笑いながら答えた。
「安心なさって。これは私がお願いしたことがきっかけですの」
──少し前のこと。
アリシアは、今日のティータイムでユースに特製スイーツを作ってもらう件を、きちんと王へ報告していた。
それは王女としての責務であり、身分の違う者を王宮に招く以上、当然の手続きだった。
しかし──そのとき、王の反応が変わったのだ。
「……その少年の名前は?」
「ユース、と申しますわ。アウス村の出身で、光属性の魔法を──」
「光属性?」
王の声音が変わったのを、アリシアは今でもはっきり覚えている。
「まさか……成人の儀にて登録された、“ラウディア王国唯一の光属性”の子か?」
「──ええ、その通りです」
そう答えた瞬間、王は目を細め、静かに頷いた。
「……よかろう。非公式という形で構わぬ。会わせてくれ」
その瞳には、王としての警戒と、ひとりの人間としての興味が交錯していた。
──そして今。
「そういうわけで、陛下が“ユース様に興味がある”と。
もちろん、非公式という形ではありますけれど」
「……な、なんで……」
「光属性だからですね」
クラリスが静かに口を開いた。
「この王国では光属性の魔法使いなんて聞いたことがない。
それだけで、王が注目するのは当然のことよ」
「そ、そう言われても……急すぎるよ……」
ユースは額に手を当て、小さく深呼吸をした。
それでも、彼の瞳は確かに前を見ていた。
(逃げられない。だったら──ちゃんと、話をしよう)
すると、隣からそっと手が伸びてきた。
フィリアの小さな指が、ユースの手をきゅっと握る。
「……大丈夫。ユースなら、絶対うまくいくよ」
ユースは小さく笑って、その手を握り返した。
「ありがとう、フィリア」
アリシアが軽やかに手を掲げる。
「では、皆さま。謁見の間へご案内いたしますわ」