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17.スカウトと甘い再会

成人の儀式が終わると同時に、神殿の空気が一気に和らいだ。厳かな光の余韻を残しつつも、場の雰囲気は騒がしさを帯び始める。


「――ラウディア王国で光属性が確認されたのは、記録上、前例がない」


その言葉が発せられた直後から、ユースのもとに次々と声がかかるようになった。


「君の力、ぜひ学園で鍛えてみないか?」

「王立騎士団としての将来を考えてみては?」

「特別待遇も検討できる」


中には着飾った高位の騎士団員や学園教師もいて、フィリアまで驚いた顔を見せる。


「えっ、私にも……? でも私は火属性で、そんなに特別な……」


「いや、素質は充分にあるよ。感応の反応が鋭かった。才能を磨けば、間違いなく貴族家にも引けを取らない」


フィリアは頬を赤らめつつ、ユースの方を見る。


だが当の本人――ユースは、あっさり首を横に振った。


「申し訳ありません。俺は王都に住むつもりはありませんし、学園に入る予定も――」


そのとき、ひとりの初老の男性が一歩前に出た。落ち着いた服装だが、ただ者ではない雰囲気を漂わせている。


「仮入学、という制度がある。王都に滞在している間だけ学園の講義や演習に参加できる。義務も少ないし、勉強した分は村に帰ってからも生かせるはずだよ」


ユースはその言葉に少しだけ目を細めた。


「仮入学……?」


「うむ。例えば貴族や商家の子弟が、短期間だけ通うこともある。知識も人脈も、君のような立場には貴重なものになる」


ユースは一瞬、村の顔――子どもたちや、父ガイや母セラの顔を思い浮かべた。


「……確かに、帰るまでの間だけなら、学ぶ意味はあるかもしれません」


「おお、それは良い判断だ。手続きについては、また後日あらためて」


話がまとまると、周囲の関係者たちが一斉に安堵のような空気を漏らした。


---


神殿の広場の隅。人の流れから離れたベンチに座り、ユースとフィリアはようやく一息をついていた。


「ユース、さっきの話……仮入学、するんだよね?」


「ああ。帰るまでの間だけだけどな。なんとなく、学べるうちに学んでおいた方がいい気がして」


「うん、きっとユースなら、どこに行っても大丈夫だよ」


そんなやり取りをしていると、遠くから聞き慣れた声が飛んできた。


「ユース!」


振り向けば、豪奢なドレスに身を包んだクラリスが、手を振りながら近づいてくる。


「クラリス様……!」

ユースは姿勢を正し、丁寧に頭を下げる。フィリアも控えめに会釈するが、クラリスは気さくな笑顔を向けた。


「まさか、あなたが“光属性”だなんて……本当に驚きました。でも、なんとなく、そんな気はしてたんです」


「……はあ、そんな風に見えましたか?」


「ええ。あのときのスイーツも……普通の人には作れませんもの」


ふわりと笑う彼女は、ふと視線を落として呟く。


「――あのスイーツ、またいただけたら……嬉しいのですが。ご無理は言いませんけれど」


「……えっと、材料があれば、作れますけど」


ユースは戸惑いつつもそう返す。彼の心には、「貴族の令嬢に気安く料理を作るのはどうなのか」という迷いもあったが、クラリスはそれを知ってか知らずか、まるで昔のように笑った。


「それは良かった。実はずっと、忘れられなかったんです、あの味……」


---


その様子を、少し離れた場所からじっと見ている少女がいた。


長い髪をなびかせ、端整な顔立ちをした彼女――アリシア王女は、まるで舞台の幕間を見るように、クラリスとユースのやり取りを聞いていた。


(あの子が……あの自慢していた“スイーツ”を作った人?)


クラリスがしきりに語っていた“秘密のスイーツ”。その正体が今、目の前の少年だと知った。


意を決して、アリシアはクラリスの後ろからそっと歩み寄った。


「そのスイーツ……あなたが作ったの?」


ユースが顔を上げると、そこには神殿で見かけた王女――アリシアの姿があった。


「あ、あなたは……えっと、王女様?」


「ええ、アリシア=ラウディア。……お願いがあるの」


そして、いきなりのひと言。


「ねえ、私のためにも作ってくれない? そのスイーツ」


「え、ええっ……!?」


あまりに唐突で、堂々とした要求に、ユースはぽかんと口を開けたまま固まるしかなかった――。

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