16.光、王都に満ちる
王都の朝は、いつにも増して荘厳な空気に包まれていた。
「……やっぱり、緊張するね」
フィリアはそう言いながらも、ユースの手をぎゅっと握る。王都の中心、【光の神殿】へと向かう石畳の道には、同じく成人の儀を受ける若者たちが一斉に集まり、そこかしこで騎士団や神官たちの姿も目立っていた。
「大丈夫。俺たち、ここまで一緒にやってきたんだし」
ユースの言葉にフィリアが微笑みを返すと、後ろから元気な声が響いた。
「おーい! 緊張してるなら深呼吸でもしてこいよ、ユース!」
振り向くと、《疾風の翼》の仲間たちが手を振っていた。
レオンはいつものように軽口を叩きながら、「お前が神殿で転んだら、きっと王都中で話題になるぜ」とニヤリ。ミーナは逆に真剣な顔で、「フィリアちゃん、しっかり手をつないでてね」と心配している様子。
「ありがとう、みんな」
手を振り返しながら、ユースとフィリアは人の波に紛れて神殿の正門へと足を踏み入れた。
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【光の神殿】の中は、外とは別世界のように静かで神聖だった。高い天井から差し込む陽光が、白大理石の床に清らかな輝きを落としている。
列をなして進む若者たちの中、最初に名を呼ばれたのは――
「アリシア・ラウディア王女、前へ」
静寂の中、すらりとした姿の少女が神鏡の前へと進み出る。
白銀のドレスに身を包み、長く美しいブロンドの髪を腰まで垂らし、背筋を伸ばし歩く姿に、堂々たる気品がにじんでいた。
周囲の貴族たちは一斉にひれ伏し、騎士団員も頭を垂れる。少女――アリシアは、静かに神鏡に手をかざした。
ふわりと風が舞い、神鏡は**銀色の光**を放つ。
「風属性……いえ、高位の精霊が宿るような、純度の高い風ですね」
神官の解説に、周囲から感嘆の声が漏れる。
貴族たちの間から、賞賛のざわめきが広がる。
一方でその様子を見ていたユースは、特に気負うでもなく呟いた。
「……あの子が王女様か?」
儀式は続く。次々と呼ばれる貴族の子女たちが、それぞれの属性を示していく中、ユースはふと列の先に見知った姿を見つけた。
「……クラリス?」
落ち着いた立ち姿に、柔らかな微笑みをたたえる彼女。フィリアも気づいて「クラリス様もこの儀に参加していたんだね」と小声で囁いた。
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やがて、ユースの名が呼ばれる。
「ユース、前へ」
神鏡の前に立ったユースが手を差し出した瞬間――
「……っ!」
鏡がまばゆい**黄金色**に輝き、天井へと真っ直ぐな光柱が伸びる。会場全体が息を呑み、その場にいたすべての人々が立ち止まった。
「こ、これは……!」
「光属性……? まさか……!」
神官の一人が慌てて神鏡に近づく。直後、奥の扉が開き、威厳ある声が神殿に響く。
「ラウディア王国の地にて、光属性が顕現した……これは……」
重々しく語るのは、高位神官の一人。ユースに歩み寄ると、静かに問いかける。
「名を。そして出身を」
「……ユースです。辺境の村、アウル村出身です」
「……ラウディア王国建国以来、光属性は一度たりとも現れていない。神の加護を受けし者……その意味、よく考えることだ」
神官の言葉は、ただの評価ではなく“責任”を背負わせるものだった。
ユースは困惑しながらも、心の中で静かに決意する。
(……この力で、誰かを救えるなら)