13.王都ラウゼリア到着と新たな一歩
「――見えてきたぞ。あれが、ラウディア王国の心臓、王都ラウゼリアだ」
ガルドの声に、ユースとフィリアは思わず前へと身を乗り出した。
視界の先に広がるのは、城壁に囲まれた壮麗な都市。
高くそびえる白い塔、緑の屋根が連なる宮殿街、街道を行き交う人と荷馬車の列――。
アウス村の穏やかな風景とはまるで違う、華やかな世界に、二人は息をのんだ。
「……あれが、王都……ラウゼリア……」
「すごい……まるで本に出てきたお城みたい……」
王都の門をくぐると、そこは別世界だった。
石畳を踏む音、人々の話し声、焼きたての肉やスパイスの匂い、街を彩る様々な衣服や装飾。
屋台からは甘い菓子の香りも漂い、フィリアの目が輝く。
「ユース、見て見て! あの露店の料理美味しそう!」
「ほんとだ。……うわ、なんか全部見たくなるな」
初めて見る王都の景色に、二人の興奮はしばらく収まらなかった。
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「……あれが、王都の冒険者ギルドだ」
レオンの指差す先には、巨大な石造りの建物。
威風堂々とした入り口には、銀の剣と翼が交差したギルドの紋章が掲げられている。
中に入ると、騒々しい酒場のような雰囲気が広がっていた。
大声で依頼を確認する冒険者たち、武器を修理に出す者、地図を囲んで作戦会議をする者もいる。
「す、すごい……冒険者って、本当にこんなにたくさんいるんだ……」
「私たち……本当に、ここでやっていけるのかな……」
不安を隠せないフィリアの手を、ユースがそっと握る。
「大丈夫。僕たちは、ガルドさんたち《疾風の翼》と一緒だよ」
ガルドたちは慣れた様子でカウンターに向かうと、受付の女性に声をかけた。
「新しい登録者が二人いる。俺の推薦つきで頼む」
受付にいたのは、三十代ほどの眼鏡をかけた女性職員。淡い栗色の髪を後ろでまとめ、整った制服姿からは落ち着いた雰囲気が漂っていた。
「……推薦状付きの新人ですか。それも、ガルドさんが直々に? それは珍しいですね」
「才能もあるし、礼儀も悪くない。安心して任せられるよ」
女性は名を「リーネ」と名乗った。
「それでは、お二人とも。こちらに来ていただけますか?」
別室に通され、登録の説明が始まった。
冒険者ギルドのランク制度、依頼の受け方、報酬やペナルティ、禁止行為――。
「なるほど……最初はFランクからのスタートなんですね」
「実力に応じてランクアップできますが、無理はしないこと。命を落としては元も子もありませんから」
リーネは優しげな笑みを浮かべながらも、言葉の端々に現実的な厳しさをにじませていた。
「特にこの王都ラウゼリアでは、冒険者の競争も激しいです。田舎の村と同じ感覚では通用しませんよ」
「……わかってます。僕たち、ちゃんと準備してきました」
リーネは少し目を細めてから、小さく頷いた。
「そうですか。……それなら、応援しますね。登録はこれで完了です。おめでとうございます、ユースさん、フィリアさん」
手渡されたのは、小さな銀のカード。二人にとっての新しい名刺であり、冒険者としての第一歩だった。
登録が終わって外に出ると、待っていた《疾風の翼》のメンバーが拍手で迎えてくれた。
「おお、これでお前らも正式な冒険者だな!」
「ようこそ、ラウゼリアの修羅場へ!」
「……あんまり歓迎されてる気がしないな、それ……」
皆の笑い声が響き、ユースとフィリアは自然と笑顔になる。
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ギルドでの登録を終えた一行は、紹介された宿へと向かう。
宿は静かな裏通りにあり、木造の温かみのある造りだった。
「ここが、しばらくの滞在先だ」
「おお、思ったよりいいとこじゃないか」
荷物を置き、一息ついたユースたち。
外の喧騒とは違い、宿の中は落ち着いた雰囲気に包まれていた。
「今日はもうゆっくりしていい。成人の儀まではまだ数日あるしな」
そう告げたガルドの言葉に、ユースはうなずいた。
「だったら、明日は街を見て回りたいな。王都にはアウス村にない店や食材もたくさんあるし……」
「うん! おいしいもの、いっぱい探してみたい!」
フィリアも元気よく答える。
その目はすでに、王都の甘い世界への探究心で輝いていた。
――王都ラウゼリア。
その広く、賑やかな都市での新たな出会いと出来事が、いま始まろうとしていた。