第7話 後継者
この世界の構造は、まるでワイングラスのような形状の大地がいくつも並んでいて、それらは常に滅びに向かって伸びゆく形をしているのだという。
エリザマリー様のたとえを借りるなら、「天に伸びゆく、あまりに巨大なチューリップ」みたいなものだと思ってくれればいい。
そしてエルフたちというのは、今は滅びて枯れ折れてしまった茎から渡ってきたのだという。
なんともスケールの大きな話だ。シラベール家などという鳥かごに縛られていた過去の自分が、まったく愚かだったと思わせられる。
この世界の大きさを教えてくれた二人には、私は本当にどれだけ感謝してもし切れないと思っているのだ。
だからといって、私だけを仲間外れにしてくれたことは許せるものではないが。
どういうことかって?
この世界を舞台にした壮大なゲームを運営していた二人は、やがて結ばれたのだ。
私は選ばれなかった。
エルフ野郎は、彼女と結ばれたことによって、予言スキルの覚醒を果たし、唯一無二の存在となった。
エリザマリー様とエルフ野郎との間に子供が産まれた。男児が産まれ、次に女児が産まれた。
エリザマリー様は、転生者召喚の術式の管理や、転生者の使うスキルシステムの運用、転生者ひとりひとりに宛てたメモの作成などを行うのに忙しく、子供とともに過ごす時間はほとんど得られなかった。
転生者と魔王との大規模な戦いは幾度となく繰り返され、やがて互いに何度目かの準備期間に入った。
そこで一区切りがついたと判断したのだろう。エリザマリー様は、私に世界の保持運営を任せた上、「召喚された転生者を魔王と戦うように導く」という一連の仕事を、いつのまにか側近となっていたウィネという名の者に任せ、予言のエルフ様と数人の仲間とともに旅に出た。
新婚旅行のようなものかと言ってやった。
違うと怒られた。真面目か。冗談の通じないやつらだ。
まあ怒るのも無理はない。私が尊敬してやまない仲間たちの目的というのは、この茎とは別の世界を旅しながら、別の茎へと移動する方法を色んな世界の人々に伝えに行くというものだったのだから。
あらゆる世界が滅びに向かっている。いずれ来る滅びの時に、少しでも多くが生き残れるように、行ける場所すべてに現実を突きつけ、解決策をさずけに行くのだという。
欲張りで、賢く、偉大な彼女は、すべてを救いたいのだ。
★
シラベール家は、転生者との恋愛による婚姻を繰り返し、優秀なスキルを持つ子供たちを多く揃えようとした。
転生者の血を引く者は、スキルが発現しやすいためだ。
この、転生者との子孫づくりを、根本たる泉をたずねるという意味をこめて「源泉」と呼んだ。
エリザマリー派としては、転生者本人の意志を尊重している以上、その結婚活動を阻止することもなかった。転生者たち自身がこの広大な世界を知る一助となっていたし、魔王との戦いを維持することにも利点を見出し、放置した。
やがて偶然にもエリザマリー様の嫡男とシラベール家の子孫が結ばれた。後に白日の巫女となるエリザシエリーが誕生した。もっとも、エリザマリー様の跡継ぎが、シラベール家の娘に攻略されたような形だったので、本当に偶然だったのかというのは疑わしいことではあるけれど。
つまり、シエリーは、いずれマリーノーツの女王となる存在なのだ。
その準備はそれなりに難航するだろう。とはいえ、彼女が偉大な存在として人々から愛されるための物語――白日と黒雲の巫女の物語――の構築は、すでに済んでいる。対立者たちが別の後継者を立ててくる展開は、今のところは考えにくい。
老いて全盛期は過ぎたとはいえ、私の目の黒いうちは、そのような兆候を見逃さずに芽を摘んでいくなど、造作もないことだ。
最大の問題は、両家に縁のある私が、このおてんば姫の世話をすることになってしまったことだ。
私に非常によく懐いていたからとのことらしい。
ひどいことだ。
尋常じゃないほどのストレスを抱えることになってしまった。