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第3話 優しい二人

 また今日も、シラベール家が放ってきた密偵を始末した。


 私はもう、シラベール家とは、ほとんど縁を切った。エリザマリー様を支え続けると決めたのだ。


 シラベール家は、人間を至上の存在として、人間だけの国を打ち建てることを悲願としていた。その目的のためには、他の種族や転生者を道具扱いしても許されると本気で思っていた。


 なぜ人間だけの社会にこだわるのかといえば、人間というものの存在が、自称純血エルフによって創造されたものであることに根差している。


 ――真の自由は、上位種族の排除によってしか得られない。


 そういう考え方でもって、エルフ勢からの完全な独立と自治を目指して立ち上がった過去があるのだ。


 ――人間による人間のための世界運営。


 いわば人間代表としての自負が、シラベール家を突き動かしていた――ただし、シラベール家の始祖は、人間族では決してなく、実は混血エルフであるが――。


 一方で、最初の転生者エリザマリー様が目指していたのは、まるで夢物語のような甘い世界である。それは、全種族調和の理想社会。


 人もエルフも魔族も、獣人も転生者も何もかも、笑って暮らせる世界を掴むのだと、そのための最初の一歩としてエリザマリー様が選んだものこそが、


 ――辺境でのスローライフ。


 だったのである。


 さて、浅い地下に魔族の宮殿があるネオジュークと名付けられた場所は、複数の水路が交差する場所でもあり、すでに魔族に縁のある者たちが多く住み着いて都会の様相を呈していた。


 都会である以上、スローなライフには相応しくない。


 そこで彼女らは、とにかく前人未到の場所を目指すことにした。


 予言スキルを持つエルフの助言に従って、エリザマリー様はホクキオという場所を終点に定めた。


 その場所が、水の湧く池が多くある場所だったからである。


 純血エルフにとって、けがれない大地に濾過(ろか)されて湧き出す水というのは、われわれ人間が思っている以上に重要だった。それこそ生命に関わるものだ。


 お仲間のエルフ様は、この世界とは環境の違う場所から来た。


 かつて暮らしていた清浄な魔力に満ちた場所では、ほぼ永遠に生きられたのだという。しかし、今や、そのエルフ様に適した環境ってやつは、この世界の北側に建造された世界樹という建物の中に、部分的に残されているのみなのだという。


 彼はエリザマリー様がこの世界に現れる前から、合わない魔力に身体をむしばまれるとわかっていながら、人里に降り立ち、あらゆる者たちに分け隔てなく、知識や技術や魔法を授けてきた。


 彼にこそ、辺境での穏やかで緩やかな暮らしが必要だったのだ。


 辺境でスローライフがしたいという願いは、エリザマリー様の欲求だけでは決してなく、優しい彼の苦痛を感じ取っていたがための、心優しい選択だったのだと、私は信じている。



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