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第1話 追跡

※『ファイナルエリクサーで乾杯を』(https://ncode.syosetu.com/n6107fp/)を読んでいることを前提としておりますので、その後に見ていただければと思います。

「お久しぶりですね」


「ああ、本当に……」


「こんなことになって、残念です。ほんのすこし出会い方が違っていれば……、ほんのすこし私の帰りが早ければ……」


「もういいんだ、エリザマリー様。ここも絶対に安全とは言い切れない。万が一が起きないとも限らない。だから、はやく去ってくれ。それとも、こんな私を笑いに来たのか」


「面白くない冗談ですね。もともと、あなたの話は、難し過ぎてよくわからないことが多かったですけど、本格的にわかり合えなくなる前に、何とかしに来たのですよ」


「それで、何とかする方法は見つかっているのか?」


「…………」


「エリザマリー様も、ずいぶんこちらの世界に馴染まれたようで」


「どういうことです?」


「あのエルフ野郎も、都合の悪い質問をされると、よく黙ったものだ」


「誰だって、黙りますよ。なんで、なんであなたがこんなことに……」


「ああ、すまない。泣かせてしまうとは情けない」


「かならず、見つけ出します。元に戻す方法を」


「いいや、だめだな。取り返しのつかなくなる前に、私の命を奪うべきだ。エルフ野郎の予言にも、そう出たんだろう? 顔に書いてあるぞ」


「…………」


  ★


 時が流れ、エリザマリーやその他すべての転生者が消え去った時代。大いなる戦いの終わった世界。


 ミヤチズ領主の館には、ながい年月をかけて宝物庫ができていた。


 かつて地下牢として使われたその場所は、いまや書物庫となっている。


 その大量の書棚の奥には大きすぎるベッドが置かれていて、落ち着いた読書が楽しめるスペースになっている。


 そこから分厚い石壁を一つ破壊すると、宝物庫があらわれる。


 そこには、肖像画や家系図など、価値の高さのわかりにくい、ファミリーヒストリーに満ちた宝物たちが隠されているのだった。


 多くは、シラベール家に関係のない者が見たところで、意味をなさないものだ。


 けれども、そうした宝物の中から発見された、おびただしい数の古びたメモ群は、実は女王エリザマリーとシラベール家の関わりを示すものとしても、大いに価値のあるものだったと言えるだろう。


 今、そのなかから、隠蔽され、秘匿され、存在しなかったことにされた男の手記を紐解いていく。


 誤解と不遜がちりばめられ、虚飾と美化にまみれていると評価されたその手記は、しかし、世界が動き出し、そして止められた瞬間を、見事に切り取ったものであったと思われる。


 ★


 召喚には成功したと頭首(ボス)が言い張った。


 私が、探してこいと命じられた。


 最悪だ。面倒な仕事を言い渡されてしまった。


 初めての転生者召喚術式が安定しなかったから遠くに出現してしまったのだと言われたが、そもそも、本当に成功したのか疑わしかった。


 転生者は、この世界とは別の世界から来る。肉体と精神の時間がほぼ固定されるため、非常に丈夫で、便利な労働力となり、使い減りしない兵力となることが期待された。


 最初の転生者の名を、エリザマリーという。


 本名も、たしか似たような名前だった。いや、少しおぼえにくい、変な響きだったと思う。彼女から言わせれば、「私のもといた世界では普通の名前ですよ」とのことだったけれども。


 なぜ私が彼女の名を知ることになったかというと、単純な話、彼女と出会い、ほんのひととき同行したことがあったからだ。


 私が、彼女が召喚された地点に足を運び、鬱蒼とした森の中で足跡を追っていくと、逃げ回ったあとがあった。


 彼女のものと思われる髪――見たことのないような鮮やかな赤色をしていた――も散乱していた。


 召喚されてすぐに魔物か何かに襲われて、ひたすら逃げまくり、岩の裂け目から地底へと潜ったのだろう。


 私は唾を飲み込み、闇の中へと歩を進めた。


 追跡スキルなんてものを持っていたがために、闇の中でも光る足跡がハッキリ見えた。


 とはいえ、この頃の浅い地下階層では、光る草などがあちこちに生えていて、注意深く観察すれば、別にスキルなどなくても彼女の足取りは追えたのだが。


 結果から言えば、私は、光る草が生い茂る浅い階層の地下世界では、エリザマリー様に出会うことはできなかった。


 かわりに、わりと階級の高い魔族たちが襲い掛かって来た。


 私が苦難に満ちた魔族との潰し合いの果てに、闇に浮かぶ絢爛豪華な魔族の地下宮殿へと辿り着いたところで、彼女の足跡が途切れていることに気付いた。


 どういうわけか、もう彼女は地上に戻っていたのだ。



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