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巫女姫、囲い込む

 神殿に戻る頃には、空に星が一つ二つと灯り始めていた。自室に戻り、報告を受ける。


「ファトマ王女には回廊側の客室を準備しております。既に身柄は引き受けておりまして、専属の側仕えとしてフローラを付けております」

「ありがとうございます」


 巫女姫の正装から短衣へ着替えを行いながら、ペトラが淡々と説明していく。王女に用意された部屋は、神官や巫女の生活区域に近い神殿の奥にある。誰にも見咎められずに行動するのは難しい場所だ。フローラは、ペトラ不在時に巫女姫の身の回りの世話を代行する側仕えだった。北方出身で淡い金色に輝く髪と青空のような目、白い肌。穏やかに微笑みつつ、何事も見逃さず適切に行動できる優秀な巫女だ。自分が選ばれた意図も正確に理解し、情報を集めてくれることだろう。

 漬け込んだ野菜と干し肉を煮込んだスープとパンの夕食を摂りながら、王女の処遇を考えていく。公的な王女の立場は、巫女姫の友人。賢帝にそのように宣言したので、元老院にもそう報告されるはずだ。神殿でも客分として扱われる。

 王女についての情報は、今のところ凱旋式での印象と、昼食会の話に挙がった内容。道中の詳しい様子については、また改めて報告が来る。しかし、根本的に足りていない情報がある。


──王女自身の思いが、全く分かりません。


 帝国に身柄が引き渡されてから、王女の行動は常に監視下にあった。動向の報告は逐一行われていた。それなのに、王女の心情を窺い知れるような情報がすっぽり抜け落ちているのだ。

 同行する侍女の調査と処分があり、そちらに目が奪われていた面もあるかもしれない。それでも、順調に行っても一ヶ月に及ぶ長旅だ。道中不安がっていたとか、思い詰めた様子であったとか、何かしら報告が上がってくるのが普通だ。

 それなのに、彼女に関してはおしゃべりに興じていたという情報しかない。それも、相手に合わせてご丁寧に言語まで変えて。余裕すら感じさせるその振る舞いと、王女の年齢がどうにも合わない。


──まあわたくしも、年相応の子供ではなかったと思いますが。それにしても…


 巫女姫が五歳から神に捧げられ、その立場に相応しくあるよう教育を受けてきたように、王女も何らかの特殊な環境で育ってきたのだろうか。しかしそうなると、凱旋式での振る舞いがちぐはぐだ。

 賢帝も王女の得体の知れなさをリスクと捉え、自派の議員へ下賜する選択肢よりも巫女姫に預ける道を選んだのだろう。巫女姫の「友人」という何とも曖昧な身分であるからこそ関与する者を絞り込んで監視できるし、その素性が明らかになってから改めて処遇を決定することもできる。


「王女についての報告は、就寝前までにお願いします。お友達のことは気になりますから」

「かしこまりました」


 ペトラが深々と頭を下げる。王女も今頃は夕食を終え、就寝準備に入っているはずだ。彼女が寝てしまえば、手の空いたフローラから直接報告を受けることができる。


──さて、わたくしの風変わりなお友達をもっと知っていかなくては。

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